ニッポンの終活 ニッポンの終活〜人生の最後をどう考えるか〜 ニッポンの終活〜人生の最後をどう考えるか〜
中尾彬

中尾彬曰く、「終活は死に支度ではない」

取材・執筆:北千代 撮影:村山雄一

2019年2月19日

テレビでは、歯に衣着せぬキャラクターが人気。俳優として活躍する傍ら、油彩画や版画などを手がける、美術家の顔も持つ中尾 彬さん。数年前、奥様の池波志乃さんと夫婦揃って大病を患ったことをきっかけに、今後のことを話し合うようになったそうです。体調がすっかり回復した2013年に始めた終活の様子は、テレビなどでも取り上げられて、話題に。終活を通して感じたことについて、お聞きしました。

定年になる前に、どうして終活をやっておかないんだ

遺言を書くところから終活に着手。大病をされたとはいえ、まだまだご活躍中ですから、随分早くに始められた印象です

みんな終活でも趣味でも、定年になったら始めようと言いますが、そういう先延ばしはおかしいと思っているんですよ。みんな定年退職後になぜか急に盆栽を始めたりするけれど、定年後と言わず若い頃からやっていたら素晴らしいものができるだろうに。いきなりリクルートスーツを着始める大学生の就活と一緒なんだね。

終活というのは、夫婦の片方が弱っているとできません。「終」という字の印象で、気が弱っている時に終活をされると、自分だけフェードアウトされちゃったように感じるから、現役の元気な時に始めるべきですよ。体力も使うし。

長年生きているとものはたまります。でも分けてあげたり、欲しい人にあげたりと整理してみて、惜しかったなというものはない。トレードマークの”ねじねじ”もずいぶん処分しました。好きな色とか形とかのものしか使わないことがわかって。

私は終活をやってみても、何も変わらなかったね。ただ、今までは欲しいものを買うのが一つのステイタスになっていた部分もあったけれども、そういうものを買わなくなりました。

でも、新しい価値観に合うものはまだまだ買いますよ。終活は死に支度ではなく、これからもよりよく生きていくためにすることですから。

アトリエや別荘も手放されたというのは、相当思い切ったご決断だったのでは?

やはり別荘を持つことが自分のやり遂げた仕事の成果だったりしたんだけれども、別荘に行っていれば、行っているだけ仕事がないということでしょ?それは困るし、行かないと家というものは傷んでくるし。別荘なんてね、行っているうちが花ですよ。行かなくなったら、もうそれは逆に邪魔になる。

アトリエも、イタリア帰りの建築家の同級生と二人で設計したものでした。真っ黒の壁に窓枠が真っ赤だったから、中華料理屋と間違えられたりして(笑)。

ネジ一つ、スイッチ一つでも凝っていたから、部品が壊れても日本になくて、海外から取り寄せなければならない。そんな凝った建物が、全部木でできているから、だんだん、傷んでくるんですよ。でも、設計が複雑なので、台風でガラス窓が飛んでもどこの戸のガラスだかわからない。それで、置いてあったものをあげたり処分したり預かってもらったりする算段ができたので、更地にして手放しました。

中尾彬_ニッポンの終活1

思い出に浸るほど歳を取らないように、自分で戒めているんです

写真も惜しげもなく整理なさったとか

整理をしていると、意外なものがたくさん出てきましたけれども、そこで手を止めちゃうと進まないね。一つ一つ手は止まるんですよ。え、こんなものあった?とか、え、こんなものいつ使った?とか。極端な話だと、この人と一緒に写真写った?なんて全く覚えていないこともあったね。でも、そこに私と一緒に写っている人はみんな、いなくなっちゃってるから、それを残していてもしょうがないな、ということで処分したね。今は亡き人の写真だから記念にとっておきたくなる人もいるだろうが、私は逆だね。あんまり思い出に浸りたくないんで、とっておきません。

というのは、思い出に浸るほど歳を取らないように、自分で戒めているんですよ。でも紙焼き写真は文化だから、という意味で、風の色に合わせて春夏秋冬、1年に4枚とっておけばいい。

捨てることへの罪悪感もあるでしょうが、ものっていうのはある面でいつかなくなる時があるものですし、価値観も時代とともにどんどん変わってますから。今はもう、いざという時に絵が1枚あればなんとかなんて時代じゃない。鑑定番組を見ていたって、本物でも三千円くらいにしかならなかったりするでしょう。

墓石は風雪に耐えてだんだん黒くなってきたりするのをそのままにしておいてくれ

すでに、自らデザインなさったお墓も建てられていますね

お墓のデザインをするときは、作品を作る感覚でしたね。これまでに、油彩画、版画、カメラと色々やってきたけれど、石は機会がなかった。だから、「よし、いい時に石の作品ができるぞ」と。

でかい石で造りたかった。そうしたら、お坊さんがあまり奇抜なものにしないでくれと。それで、縦に重ねるものを横に寝かせようと発想を変えることになった。デザイン画なんて描かなかったよ。描かなくてもデザインは頭の中にあるから、石屋の友達に材質を相談して、その場で立ち会って、頭の中のイメージに合わせて、何センチずらしてなどと指示をして。作品は、テーマやモチーフを選ぶのが楽しい。刺激を受けると、それが変わってくる。でも、テーマさえ決めちゃえば、実際に表現するのは早いですよ。

出来上がった墓石は、苔がつこうがなんだろうが洗わないで、風雪に耐えてだんだん黒くなってきたりするのをそのままにしておいてくれと言っています。その経年の歴史も含めた作品になるだろうと思っています。

自分が入る墓は造ったけれど、自分の絵は一切、自宅には飾ってないんですよ。でも、志乃の絵だけは額装して飾ってあります。幼稚園の時のね。上野動物園の猿描いてるの。額も絵のうちでね。いい絵のくせに額が貧弱だと絵も貧弱に見える。

最後まで捨てられないものはない。だけど、自分に描けない絵っていうのは癪に触るから買っちゃうんですよね。集めた作品は、私がいなくなったら色々な人に見てもらうことを考えています。

中尾彬_ニッポンの終活

葬儀は儀式として、ピシッとするのがいい

持ち物の整理やお墓の準備の他にも、様々なお考えを整理されたそうですね

仕事も整理をしました。舞台の上で死んじゃったら舞台を観ているお客さんがびっくりする。だから私たち夫婦は、しがみついて一所懸命頑張ればいいってもんじゃないって思っています。

疲れってたまるからね。昔はどこかで食事して飲んで、もう一軒行きましょうって2時3時までやっていたんだけど、今はそういうのが億劫になって、まっすぐうちに帰ります。歳をとったら不義理はしょうがないんです。それまでは一所懸命付き合ってきたんですから。冠婚葬祭に呼ばれるのは、その人が認められているからでしょう。そういうこれまでの積み重ねがあるから、もう無理はしなくていいかなと。

絵を描くのと一緒です。私がスケッチを5〜10分で描くと、たいていの人は現状だけを見て、「早いですね」って言う。でも後ろに60年の積み重ねがあるから、実際には早いわけではないんですよ。

こういう些細な積み重ねが大事なことってありますよね。講演に呼ばれて、よく「夫婦円満の秘訣はなんでしょうか」と聞かれるのですが、秘訣があったら、誰も離婚なんてしませんよ。ただただ、今日の出来事を話し合うしかないと思います。

ご夫婦での話題は、延命治療をするかどうかや、お葬式の形式にまで及んだとか

延命治療についても、いつでも答えを出せるような状態にはしといた方がいいなと思ってね。でも、改めて膝突き合わせて話したって、発展しない。うちはニュースなんかをよく見て、それで飯食いながらの夫婦の日常会話にちょこっと話題にして、本音を話したりします。それで、私たちは延命治療を求めないよね、という意見になった。

葬儀については年中やっているからね、今の葬儀の形式に抵抗はないです。ただ、自分のことははっきりしないけれども、流行のお別れの会や偲ぶ会は参列者が満足している面もあるので、無理やりその方法にするのはどうかな。新しい形のお葬式が流行るのも、儀式としてのお葬式に問題があるわけではなくて、やり方に問題があるだけでしょう。人間的にも年齢的にも自分のことを考えると、けじめ、ピリオドとして、儀式としてのお葬式をする方がいいかな、という気がしますね。

やはり、ピシッとしたものはいいですからね。

所有物の整理を通じて、人生観を見つめ直されたのでしょうか。ご葬儀については、やはり、けじめをつけたいというお気持ちがあるのですね。本日は、ありがとうございました。

中尾彬_ニッポンの終活

中尾彬

1942年、千葉県木更津生まれ。
日活ニューフェイスに合格後、フランス留学を経て、劇団「民藝」に入団。1964年の映画「月曜日のユカ」で本格デビューし脚光を浴びる。1975年「本陣殺人事件」で主役、金田一耕助を演じ、その後は、大河ドラマや「極道の妻たち」「ゴジラ」シリーズなど人気作品に出演。近年は
「アウトレイジビヨンド」や「龍三と七人の子分たち」など北野武監督作品にも出演。
2018年夫婦での共著「終活夫婦」(講談社)を出版。
また、バラエティー番組や情報番組のコメンテーターとして幅広く活躍している。

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