【プロが語る!】平成30年度の介護保険改正について(平成29年4月)

今回は、徐々に決まり始めた、平成30年4月に改正される「介護保険法」の、現時点の検討課題や方針などをお話ししたいと思います。

介護保険は、6年ごとに大きな制度改正があり、3年ごとに報酬改定があります。

直近では、平成24年度に大きな制度改正が(次回は30年度)、27年度に報酬改定がありました(次回は30年度)。また、平成30年度は医療報酬とのW改定が予定されていますので(医療は2年ごと)、大きな改正(激震?)が予想されます。

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全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料

最近は、毎年何かしらの改正があり、制度が変わることが当たり前になってきましたね。年度末に、全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料が公開されました。

だいたい年度末にこの会議が開催されるのですが、この会議資料は、1年間のさまざまな議論が上手くまとめられ、今後の実施スケジュールなども公開されています。

平成29年度に実施が予定されていることは?

現時点での、29年度の実施(予定)されることとしては以下のとおりです。

  1. 29年4月から介護職員処遇改善加算の見直し(4月サービス提供分から)
  2. 29年8月から高額介護サービス費等の一般区分上限を44400円に引き上げ
  3. 第1号保険料軽減強化の完全実施の見送り
  4. 29年8月から介護納付金への総報酬制の導入

1)は、新加算Ⅰが追加され、介護職員さんの昇給額が期待できると思います(1万円up)。本来は、来年4月実施する予定が、人材難も影響しているのか、1年間前倒しされました。この加算は、介護職員の給与が、他業種と肩を並べられる事を目的としています。

2)は、介護サービスを使った場合、1ヶ月の自己負担額が上限額を超えると、高額介護サービス費が支給され、自己負担額がおさえられます。医療に於ける、高額療養費のような制度です。

この上限金額が、一般の場合、37200円→44400円に引き上げられます(ただし、3年間の時限措置があるため、年間上限金額は今までと変わりません(37200×12))。1ヶ月の自己負担額が増えることになります。

3)は、消費税10%の実施が延期されたため、財源がない!とのことで、軽減強化を見送っています。ケアマネの試験を受ける人は、今年もこの特例を覚えておかないといけません・・。

4)第2号被保険者(40~64歳)の月々の保険料が、加入者「数」に応じた負担から、「報酬額」に応じた負担に変更になります。3年間の激変緩和措置があります(段階的に高くなっていきます)。1700万人が増額されるようです。

平成30年度に実施が予定されていることは?

平成30年度に実施されることとしては、以下のとおりです。30年8月より現役並み所得者の負担割合3割(法案提出予定)、30年4月から新しい介護保険施設として「介護医療院」が創設、30年4月から「共生型」サービスが創設、要介護認定の有効期間が36ヶ月に延長

まだ議論中の話題もありますが、30年度に実施(予定)されることとしては、以下のとおりです。

  1. 30年8月より現役並み所得者の負担割合3割(法案提出予定)
  2. 30年4月から新しい介護保険施設として「介護医療院」が創設
  3. 30年4月から「共生型」サービスが創設
  4. 要介護認定の有効期間が36ヶ月に延長

5)は、年金収入340万円以上の約12万人(受給者496万人の約3%)が対象になります。27年度に、2割になったばかりですが・・。あっという間に3割になりました。

6)介護医療院が創設されます。全国にある介護療養型医療施設が、この介護医療院への転換が期待されています。これに伴い、介護療養型医療施設の経過措置期間が6年間延長されます。

7)共生型サービスが創設されます。富山型デイサービスのように、同一の事業所で、高齢者と障がい者が混在して、サービスを受けられるようになります。介護保険と障がい福祉両方の制度に共生型サービスが位置づけられます。とはいえ、今までサービス内容や書類などが異なっているので、統合はなかなか難しいとは思いますが。ただ障がい者のサービス事業者が増える事は良いことです。

8)更新認定の有効期間が、6・12・24ヶ月に、新しく36ヶ月が追加となります。今までよりも12ヶ月延びるようになります。介護認定の事務は、かなり経費が掛かる事もあり、事務負担の軽減策として期待されます。もし重度化した場合は、区分変更を申請すれば、介護度が有効期間中でも変更できますので、延長されても問題はありません。

このほか、福祉用具貸与の価格の上限額を定める、保険者(区市町村)機能が強化される、生活援助中心のサービス事業所の人員基準が見直される、介護報酬の改定などが予定されています。

なお、昨年、話されていた下記3点については、それぞれ次のような動きになっています。

① 軽度者向け居宅サービスは地域支援事業へ移行する。→ 将来的には行なわれる予定だが、現時点では延期に。

② 軽度者の生活援助、福祉用具、住宅改修は原則自費となる。→ こちらも、現時点では議論まとまらず、延期に?ただ、改正はあります

③ 2割負担の対象者を拡大する→ 2割の拡大ではなく、3割を新設しました。

新年度から、さらに議論は加熱していきます。こちらでも定期的に紹介していきます。

根幹レベルの変更を議論

介護保険の6年ごとの制度改正は、実際に制度を動かしながら、財政状況や現場サービスの充足状況を考慮に入れて、新しいサービスの設置や既存サービスの提供方法の変更、根幹レベルの変更を議論しています。

介護保険は、6年ごとに大きな制度改正があり、3年ごとに報酬改定があります。

直近では、平成24年度に大きな制度改正が(次回は30年度)、27年度に報酬改定がありました(次回は30年度)。

また、平成30年度は医療報酬とのW改定が予定されていますので(医療は2年ごとに改定があります)、大きな改正(激震?)が予想されます。

この6年ごとの制度改正は、実際に制度を動かしながら、財政状況や現場サービスの充足状況を考慮に入れて、新しいサービスの設置や既存サービスの提供方法の変更、根幹レベルの変更を議論しています。

根幹レベルの変更とは、突き詰めると、「増え続ける介護保険の財源をどうするか?」という悩みに対して、「サービスの対象者をさらに限定するかどうか?」という話になっています。

現在、検討されている大雑把な内容としては(今後、議論が深まる中で、詳細が出てきます)

  • 軽度者向け居宅サービスは地域支援事業へ移行する
  • 軽度者の生活援助、福祉用具、住宅改修は原則自費となる
  • 2割負担の対象者を拡大する

7月にこの話題が出てから、①の話題について検討されていました。
ちなみに、ここで言う、軽度者というのは、要介護1・2の認定者も含まれています(軽度ではなく、中度になりますが……)。

ただ、先送りということは、次回の改定(早ければ33年度から)で実施される可能性があるということと、生活援助の報酬単価は、平成30年4月から、現在よりも下がることが予想されます。

争点は「生活援助に公費を使う必要があるか否か」?

生活援助は、訪問介護(ホームヘルプ)では「相手の体を触らない介護」と呼ばれているもので、特に食材・日常生活品の買い物、病院・施設への通院同行・外出、掃除・洗濯などの日々の生活を支えるサービスになります。

老々介護世帯が増える中、この生活援助を全国のホームヘルパーさんが提供することで、世帯に住む方の重度化を防ぐことがるのですが、「生活援助に介護保険の公費を使うかどうか?」を問われているわけです。

生活援助のサービスは、家政婦サービスと混同されてしまうところがあり、「公費を使う必要があるのか?」という点が毎回のように議論になります。

生活援助は、本人ができるところ、できないところを見極めて、できないところを支援するサービスです(ある程度、自立して生活ることを目指しています)。一方、家政婦サービスは、本人から頼まれたことを、代わりに家政婦さんが行なうサービスですから、そもそも発想が異なります。

もし、これを公費から外して、完全な自費サービス(家政婦サービス)として、頼まれたことを代わりに行なっていくと、本人の能力が徐々に失われていきます。

ヘルパーさんに手伝ってもらいながら、日々の生活をおくることと比べて、重度化を促進することになります。

厚生労働省も、いきなり自費ではなく、現サービスを地域支援事業に移行させると考えているのも、この辺りを考慮しているからだと思います。

総合事業の運用はいまだ1/3程度

今回延期する理由として挙げられているのが、現時点で、総合事業を開始していない自治体数が多く、これを30年4月から、要支援1・2の他に、要介護1・2の生活援助を現介護保険制度から、地域支援事業に移行するのは難しいという判断されたことによります。

27年度から総合事業が始まり、今まで介護保険の介護予防サービス(要支援1・2向けのサービス)として提供されていた「訪問介護と通所介護」が、総合事業が始まった自治体から、地域支援事業の「総合事業」としてのサービスへ移行が始まっています。

総合事業が始まった自治体にお住まいのみなさんは、すでに全国どこででも始まっているのでは?と思われるかもしれませんが、まだ全体の1/3程度しか始まっていません。

各自治体は27・28・29年度のいずれかの年度からスタートすることが決まっているだけです。始まっていない自治体は、今まで同様に要支援1・2の方には、介護予防サービスを提供しています。

この要支援12の移行が、まだまだ途中経過ということもあり、今回は自治体への負担を考えて延期となったのです。

平成28年7月1日現在のデータですが、総合事業/包括的支援事業を開始した自治体は

平成27年度に開始   288
平成28年度に開始予定 338(そのうち、すでに開始した自治体、228)
平成29年度に開始予定 953

1579の自治体のうち、1/3の516自治体が開始しているにすぎません

そもそも介護に携わりたい人材が減少傾向に!

そもそも介護のボランティア人材が減少している傾向があります。介護職員初任者研修に人が集まらないほか、介護福祉士の受験生が減っています。

また、総合事業に移行すると、生活援助を、多種多様な提供者からサービス提供を受けることになります(特に生活援助は、ボランティアの活用が期待されています)。

ところが、このボランティアの人材をどうやって増やすのか?の話も大事なのですが、そもそも介護に携わりたい!と思っている人材が減ってきている状態です。

介護の入門資格である「介護職員初任者研修」が、人員が集まらないという理由で、今年中止に追い込まれている事業者さんがいくつもあります。

また、今年度から国家資格「介護福祉士」を受験するために、「介護職員実務者研修」の受講が必須になりましたが、正式な受験者数はまだ発表されていないものの、介護福祉士の受験生が減っています(私の周りにも、今年受験する!という人が少ない状況です)。

このあたりの人材難も、今回の延期理由の1つになっていると、個人的に感じています。

今後も議論の動向に、ご注意下さい。

この記事を書いた人

橋谷創(橋谷社会保険労務士事務所代表、株式会社ヴェリタ/社会保険労務士・介護福祉士)

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