今回は、介護離職の予防についてお話したいと思います。
介護離職という言葉は、「家族などの看護・介護を理由に、働き盛りの社員が会社を辞めること」の意味で使っています。
▼介護離職の現状について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
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目次
統計データから見る「介護が必要になる原因」
今回は、介護離職を防ぐために、両親の変化を発見するポイントをお伝えしたいと思います。
同居していると、なかなか気がつかないポイントでもあります。
国民生活基礎調査25年度には、Ⅳ介護の状況という調査項目があり、「要介護度別にみた介護が必要になった主な原因(上位3位)」が公開されています。
- 脳血管疾患(脳卒中)
- 認知症
- 高齢による衰弱
その他としては、「骨折・転倒」「関節疾患」などがあります。
この中で、突然起こるものとしては、「脳血管疾患(脳卒中)」「骨折・転倒」があります。ただ、しばらくは入院になるケースが多いのですが、その短い期間に介護の準備をすることになります。
また、徐々に症状が強くなったり、日常生活が送れなくなるものとして、「関節疾患」「認知症」「高齢による衰弱」があります。
特に2番目に多い、認知症は、日本中で徐々に増えてきています。
24年度のデータですが、全国の65歳以上の高齢者について(3,079万人)、認知症有病率推定値15%、認知症有病者数約462万人と推計しています。
また、全国のMCI(正常でもない、認知症でもない(正常と認知症の中間)状態の者)の有病率推定値13%、MCI有病者数約400万人と推計しています。
MCIの方々すべてが認知症になるとは限りませんが、対応を行わないと、認知機能の低下が続き、5年間で約50%の人は認知症へとステージが進行すると言われています。
この認知症の方+MCIの方=28% 65歳以上の4人のうち1人が、認知症もしくはその予備軍となります。
親の変化を発見するポイントは?
ということで、この介護状態になりやすいベスト3について、帰省のたびにそれとなく確認することが、介護離職の予防につながります。
1)脳血管疾患
こちらは生活習慣と大いに関係がありますの、日々の食生活、運動、血圧、治療状況などについて、お話をしたり質問をすると良いと思います。
ただ誰もが自分の生活について、誰かの指導を受けたいとは思っていませんので、やり過ぎ、押しつけは逆効果になります。
2)認知症
認知症になると、環境整備が特に苦手になります。具体的には、自分の身だしなみ、部屋の片付けなどです。
身だしなみについては、「お風呂に入ってないみたい」、しばらく連泊する場合「毎日同じ洋服を着ているな」と思ったら、要チェックです。
また部屋については、「台所に真っ黒な鍋が複数ある(ガスをつけていることを忘れる)」「ハンガーに掛けたままの洋服が多い(洗濯物をたたんで、タンスに入れることが出来にくくなる)「新聞紙、プラスチックトレーなどがたまっている(ものが片付けられない)」などの、以前と違うな・・と思ったら、MCIかも?と疑ってみると、認知症への治療を早く始められるかもしれません。
▼認知症の診断について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
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3)高齢による衰弱
衰弱すると、活動量が減りますので、家に閉じこもりやすくなります。閉じこもることで事故に遭うなどの危険は減りますが、筋力低下や精神面の落ち込みが見られ、廃用症候群という状態になります。
「ネット通販が増えている(空き箱がたくさんある)」「外に行かない」「テレビばかり見ている」「人との交流が減った」などのポイントを確認してください。
気持ちよく「確認」するための秘訣は?
確認するときの注意点ですが、本人ができていないことを中心に聞くと、お互いに嫌な気分になり、「あんたのアドバイスはいらない!」と反発を受けることがあります。
最初に、今、がんばっていること、工夫をしていることを聞き、「最近、どんな趣味・課外活動をしているの?」とか、「日々の生活の知恵、最近見つけたお得情報」などの話を聞いて、日々の活動の中身を確認します。
私は、皆さんのこういうお話が好きなので、よく聞いています。その後、生活で困っていること、体調などを聞きます。
このときに、アドバイスをする人が多いとは思いますが、両親が息子・娘さんからのアドバイスを普段からよくきかれている場合は別ですが、聞かれていない場合は、両親から求められたらアドバイスするようにした方が、良いと思います。
できれば、両親から情報を聞き出すことに集中しておく方が、入院するような緊急事態になっても、話をしっかりと聞けると思います。
ケアマネさんに相談するときも、両親の意向を伝えるのが、結構大変になりますから(この確認作業で、両親と「けんか」になってしまう場合も多いです)。
また両親の意向がはっきりしている方が、自分1人で頑張らなきゃ!という気持ちが薄れますので、足りないところを補うサポートができると思います。話し合いを継続できるように、いろいろとお話をしてください。
介護の事前準備をしておこう
地域包括の電話番号を調べる
住所地担当の地域包括支援センター(行政により、名称が異なります)がどこにあるのか?連絡先電話番号などを確認しましょう。
市役所のHPの、「医療介護福祉」あたりをクリックすると、情報が手に入ると思います。困ったことがあれば、まず「ここに連絡しよう!」と話をしておきましょう。
健康保険証・介護保険証の保管場所を調べる
健康保険証、介護保険証、民間医療保険証などの保管場所を確認しましょう。何かあったときに、すぐに取り出せるようにするためです。
保険証については、気が焦った時に探しても「なかなか見つからず、部屋中を引っかき回した」いうエピソードを持っている方がたくさんいます。
ちなみに、民間医療保険証というのは、民間医療保険(がん保険など)、入院保障付きの傷害保険、民間介護保険などのことです。
また、両親がどんな保険に加入しているか?を知っておくと、いざという時、どのようなケースであれば保険をあてにできるのかがわかります。保険についてよくわかっていない場合は、保険の担当営業マンに電話して聞いてみる、もしくは保険証を持って、町中にある保険の相談施設などに出向いてみるのも良いかもしれません。
加入している保険を、一覧表にまとめておくと、いざというときに便利です(また、まとめておくと、後で内容を思い出しやすくなります)。
病歴を調べる
両親それぞれの病歴や、検査データをまとめておきましょう。性格的に、まとめるのが好きな方は良いのですが、苦手な人の場合は、聞き取りをした方が良い場合があります。
また、人によっては、少しずつ思い出す場合もありますので、聞き取りが何回かに分かれることもあります。
病気について聞く場合は、病名、何歳で病気になった、どこに入院した・通院した、治療内容、後遺症(この後に生活がどのように変わったか?)などを聞いてまとめておくと良いと思います。
また、検査データなどもファイルにまとめておくと、入院時に役に立ちます。
今後の意向を確認する
すぐに回答が出ることではなく、今後継続して話をすることになります。「自分たちの介護をどうするか?という両親の意向」になります。
「意向」というのは、今後、自分たちが介護状態になったときは、自分たちはこうしたい、子供たちにこうして欲しいという希望や願いを聞くことです。
今こんなことを考えているんだ、ざっくばらんに話せると良いと思います。
日本は言霊の国ですから、「言葉にすると、それが実現してしまう!」と思うので、いざという時の事を話をしたがらない傾向はありますが、こんな場合はどうするの?という雑談でもかまいませんので、話をしておくと良いと思います。
たとえば、両親にとって、どんな暮らし方が、理想だと思っているのか?夫婦でがんばれるところまで、頑張るのか?子供と同居するのか?2人で有料老人ホームなどを入居するのか?子供が住んでいる地域に引っ越しをするのか?近所の○○さんにお願いする?などなど
もし一人になった場合、1人で生活を続けるのか?その場合は、誰に介護してもらうのか?それとも子供たちと同居するのか?子供の誰と同居するのか?有料老人ホームに入居するのか?などなど
認知症になった場合、どうしようと思っているのか?子供と同居する気があるのか?誰と暮らしたいのか?(こちらは質問としては重めです)などなど
話を聞くときは、実現可能かどうかを子供さん側が判断をする前に、希望を聞いてみてください。
質問を投げかけることで、自分たちがどうしたいか?をより考えるようになると思います。
早めに会社に相談をしておこう
多くの会社勤めの方にとって、会社の総務や人事に介護について相談をする場面というのは、すでに問題はかなり大ごとになっていて、「退職しないといけません…」「介護休業をとりたいのですが…」という話になることが多いのです。
サラリーマンにとって会社は、介護に不安を感じ始める初期の段階に相談する相手というよりは、ある程度自分自身で動いてみて、介護の方向も定まり、「今後の生活スタイルをどうするか?」という段階になって、はじめて相談する相手になっているようです。
しかし、会社側としても、話が大ごとになってから相談されても、打つ手は限られてしまいます。
本音を言えば、さまざまな制度が活用できる・できないは別としても、「もっと早い段階で相談してもらえれば、もう少し打つ手があったのに…」と、大切な社員を失い、残念に思っている会社も多いと思います。また、仮に現状でそのような方のための救済方法はなかったとしても、社員からの相談を受けることで、社内制度を構築する「きっかけ」になることもあるでしょう。
介護休業を取得しよう
会社で使える介護の制度の代表格と言えば「介護休業」があります。育児休業のように、雇用保険からの給与の2/3が93日間支給される制度です。
今までは、要介護3・4・5の方が対象者でしたが、要介護1・2の方も可能になっています。
さて、この介護休業の目的ですが、「仕事と介護の両立の準備(社内の両立支援制度の確認介護認定の申請、介護施設の見学など)をするための期間」として位置付けられています。また看取りのために、この休業を活用することもできます。
介護休業は、みなさんに、介護を専念してくださいという休業ではなく、自分自身の生活を守るために、仕事と介護の両立を検討しながら、実際の準備や手続きなどを行なうことが趣旨なのです。
ちなみに、この介護休業の取得率はまだまだ数%程度ですが、この制度を使うことで、両立への第一歩が踏み出せるかもしれません。
話し合いを上手に進めるコツは?
両親との話し合いを上手に進めるためにも、最初から回答を求めすぎないでください。誰もが将来について、明確にコメントすることは難しいのです。
だからこそ、何度か話をして、こういう意向があるんだなと思いつつ、実現可能な事は何かを、家族で考えていく必要があります。
皆さんからお話を伺うと、「両親ともっと話をしておけば良かった!」というコメントが多いのも事実です。
帰省の時に、のんびりと質問されると良いのではないでしょうか?
特に3つめの病歴などを聞くと、過去の出来事を思い出したりして、家族で盛り上がると思います。
実際に介護開始にかかる費用は平均で80万円
また、介護が始まると、お金も時間もそれなりに必要になります。
お金の面では、以下が参考になると思います。「平成27年度 生命保険に関する全国実態調査」(生命保険文化センター) によると、介護をした人の、平均介護期間は59.1ヶ月(4年11ヶ月) 、介護の開始にかかる費用は平均で80万円です。
病気や怪我で後遺症が残り、退院して自宅に戻ってくると、 今まで同じようには暮らせないケースがあり、 生活しやすいように、自宅の改修や、 福祉用具の購入などが必要になります。
ただ、このあたりは、 その人の身体状況や今までの生活スタイルなどが大きく影響するた め、人によって工事の内容やどんな福祉用具を選定するのか? という中身が異なります。
一般的に、どんな自宅改修が多いかというと、
一般的に多い自宅改修
- 便器を洋式に変更する
- 廊下、トイレ、玄関、風呂に手すりをつける
- 風呂やトイレ、玄関の段差の解消
- またぎやすくするための湯船の変更
- 風呂の入り口を2枚戸にする
- 玄関前にスロープをつける
*介護認定されていれば、介護保険から給付があります。
またレンタル可能な福祉用具は、以下になります。
▼介護リフォームについて詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
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レンタル可能な福祉用具
- 車いす(付属品を含む)
- 特殊寝台(付属品を含む)
- 床ずれ防止用具
- 体位変換器(起き上がり補助装置を含む)
- 認知症老人徘徊感知機器(離床センサーを含む)
- 移動用リフト(つり具部分を除く)
- 自動排泄処理装置( 交換可能部分を除く)
- 手すり
- スロープ
- 歩行器
- 歩行補助
* 要介護1以下については、原則として8から11の4種目のみ
そして、購入する必要があるものは(肌に触れるもの)です。
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購入する必要があるもの
- 腰掛け便座
- 入浴補助用具
- 簡易浴槽
- 自動排泄処理装置の交換可能部品
- 移動用リフトのつり具部分
*要介護1以下は、1から3の3種目のみ
→1の腰掛け便座に水洗ポータブルトイレが追加されました。
*介護認定されていれば、介護保険から給付があります。
この記事を書いた人
橋谷創(橋谷社会保険労務士事務所代表、株式会社ヴェリタ/社会保険労務士・介護福祉士)