あなたが介護を受けるような状態になったとき、誰が介護をしてくれるでしょうか? この悩みは、年齢が60歳を超えると、誰もが考えることになると思います。
そもそも、介護状態になったら、すぐに介護保険が使えるのか?使えないのか?
残念ながら、すぐには使えません……。
将来の生活に備えてどんな準備をした方が良いのか、それとも悩みすぎないために、考えないでおくべきなのか……。みなさんの、そんな疑問にお答えしていこうと思います。
目次
あなたの介護をしてくれるのは誰?
まずはじめに、介護状態になったときに、そもそも誰が介護をするのか?という質問ですが、通常は家族の“誰か”になります。
ここで、平成25年度 国民生活基礎調査 Ⅳ介護の状況という資料を見てみましょう。
「保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査し、厚生労働行政の企画及び運営に必要な基礎資料を得ること」を目的に、3年ごとに国が行っている調査で、平成25年には大規模調査が行われました。
この資料は、日本人がどのような行動をとっているかがわかる、とても興味深いものです。
平成25年度 国民生活基礎調査結果から
1) 要支援・要介護と認定された人(以下、要介護者等)のうち、在宅生活を送っている人のいる世帯を世帯構造別にみると、「核家族世帯」が 35.4% (209万世帯)で最も多く、「単独世帯」が27.4%(162万世帯)「3世代世帯」が18.4%(108万世帯)となっています。
最近の傾向を見ると、「単独世帯」の割合が上昇し、「三世代世帯」の割合が低下しています。
核家族世帯は、世帯構造の分類の一つで、夫婦のみの世帯、夫婦と未婚の子のみの世帯、ひとり親と未婚の子のみの世帯の3つを含んでいます。
上記、核家族世帯の中の夫婦のみ世帯数は127万世帯です。
2)要介護者等を介護している世帯を見てみると、「単独世帯」では要介護度の低い者のいる世帯の割合が高く、「核家族世帯」「3世代世帯」では要介護度の高い者のいる世帯の割合が高くなっています。
これは、核家族世帯、3世代世帯では、同居の家族が介護をしてくれるので、介護度が上がっても、なんとか自宅での生活を継続できるからだと思います。
3)介護を提供する、主な介護者を見てみると、要介護者等と「同居」が 61.6%で最も多く、「事業者」が14.8%となっています(単独世帯が多いと思われます)。
4)「同居」の主な介護者の要介護者等との続柄をみると、「配偶者」が26.2%で最も多く、「子」が 21.8%、「子の配偶者」が 11.2%となっています。
また、「同居」の主な介護者を性別にみると、男 31.3%、女 68.7%で女が多くなっています
ここまでをまとめると、主介護者(介護を主に提供する人)は、配偶者(妻)と言えそうです。配偶者と離婚した、死別した場合は、自分の子ども(娘)が有力候補になります。
以前のように、息子のお嫁さんが介護をするというのは、時代も時代なのか、かなり少なくなっています。
介護の第一歩は生活援助から
脳卒中や難病でなければ、家族が慌てるほどの「介護状態」になるまでに時間がありますので(ほとんどの方は数年掛けて)、徐々にできなくなることが増えていきます。
それに従って、配偶者(もしくは周りの人)に、生活の一部を頼むことが増えていきます。
通常、食事、排泄、入浴の事を三大介護と言いますが(相手の体を触るので「身体的介護」と言います)、これができなくなるのは、もうちょっと後になります。
その前に、生活援助(相手の体を触らない介護)として、特に買い物や通院同行、外出、掃除・洗濯などが1人では難しくなります。
特に、高齢者と同居する世帯に、外出・移動する手段があれば良いのですが、それがない場合は、家族の誰かがお休みの日に、自家用車でスーパー・病院へ送り迎えをすることになります。介護の第一歩ですね。
ちなみに、先程の3大介護の中で、最初に1人でできなくなるのが入浴です(お風呂に入るのを、家族が見守るところから始まります)。
なお、食事・排泄が1人でできなくなると、1人暮らしは難しくなります。
このような具体的な介護を、配偶者に頼むという状態は、三世代世帯以外は、ほぼ老老介護になります。
老老介護とは、さまざまな事情があって、高齢者同士が、お互いを労りながら、介護しながら生活をおくる状況になります。
核家族化が進み、3世代、2世代が一つの家に住むこと自体が減っているため、本来であれば若い世代に支援を頼みたいところですが、高齢者同士で助け合わざるを得なくなります。
老老介護で生活できるのは、だいたい79歳まで?
先ほどの調査の続きですが、5)65 歳以上の者のいる世帯のうち、高齢者世帯(世帯に属する全員が65歳以上)のみというデータもあり、「単独世帯」が49.1%(624万世帯)、「夫婦の みの世帯」が47.2%(599万世帯)、その他の世帯が 3.7%(47万世帯)となっています。
ちなみに「単独世帯」をみると、男は 31.3%、女は 68.7%となっています。
「夫婦のみの世帯」が599万世帯が、実際に老老介護を行っている、もしくは老老介護予備軍となります。
こちらのデータは、1)で挙げたものとは異なり、要介護者等以外の元気な高齢者も含まれています(老老介護予備軍になる方々です)。
私の知っている利用者の中には、その他の世帯になりますが、兄弟同士、姉妹同士で生活しているケースがあります。
また、飲み屋のパワフル「ママ」を中心にした、常連さん達と共同生活をしているグループなどもあります(飲み屋のママが、ホームヘルパーの資格を取り、単独世帯の常連さんの食事や外出を支援しています)。
6) 同居の主な介護者と要介護者等の組合せを年齢階級別にみると、「70~79 歳」の要介護者等では、「70~79 歳」の者が介護している割合が 50.6%、「80~89 歳」の要介護者等では、「50~59 歳」の者が介護している割合が 29.9%で最も多くなっています。
60 歳以上同士、65 歳以上同士、75 歳以上同士の組合せにおいて、いずれも上昇傾向となっています。
これにより、お互いを支え合いながら生活できるのは、だいたい79歳までで、80代になるに、お互いの支え合いが難しくなり(入院なども増えます)、息子・娘世代に介護を頼むような状況になるようです。
ただ、なかなか老老介護のみで生活を成り立たせることは難しいですから、近くに住む息子・娘さん達が住んでいて、バックアップしている世帯も多いと思います。
施設への入所理由のトップは「介護者が疲れ果てた」
少し以前のデータになりますが、平成2年保健福祉動向調査に「家庭で介護するときの問題点は?」という質問があり、以下のような回答が挙げられていました。
- 食事や排泄、入浴などの世話の負担が大きい57.5%
- 家を留守に出来ない36.2%
- ストレスや精神的負担が大きい32.0%
- 十分な睡眠が取れない
- 介護にようする経済的負担が大きい
- 仕事に出られない
- 適切な介護の仕方が分からない
- 症状の変化に対応出来ずに不安
- 自分の時間が持てない
- 介護する部屋がない
介護保健制度が始まる10年前のデータですが、実際に在宅で介護をしている方であれば、納得されるような回答ではないでしょうか?
次に、介護保険が始まって1年後にまとめられた報告書があります。「検証:介護保険制度1年連合総研「介護サービス実態調査から見えてきたもの2001年11月」
「要介護者を抱えて困っていること(3つ選択)」という質問に対して
- 介護者の精神的負担が大きいこと64.4%
- いつまで要介護が続くか分からない52.0%
- 介護者の肉体的負担が大きい40.9%
- 介護に伴う出費が多い
- 介護する時間や労力が増えている
- 親戚間の協力体制が上手く行かない
- 介護前に比べて収入が減った
- 介護保険対象の施設に入れない
- 家事や他の家族の世話が出来ない
- 介護の方法が分からない
- 気軽に相談できる人や機関がない
主介護者が口にしたくても、なかなか口に出来ない、2)いつまで介護が続くか分からないという切実な回答や、6)親戚間の協力体制が上手く行かない(口だけ挟んでくる人も多いものです)、11)気軽に相談できる人や機関がないが、上記①との回答の違いでしょうか。
ちなみに、施設への入所理由のトップは「介護者が疲れ果てた」になっています。
私が、主介護者の方とお話しをする時に気をつけていることですが、「いつまで介護が続くか分からない」のコメントが出てくる時が、主介護者の話を、真剣に聞き始めるタイミングかと思います(ただ人によっては、話しを聴かれることを拒否する人も居ます)。
最初は、みなさん冗談ぽく言い始めて、それが段々自分に言い聞かせるような感じになり(自分自身への叱咤激励でしょうか?)、その後、ため息交じりに、深刻な顔になり、このコメントを言う段階になると、一緒に問題を考えないと、危険な状態になってしまいます(業界用語で介入と言います)。中には、うつ状態かな?と思われる人もいます。
もし、このようなコメントを親せき、友人の方から聞いたら、あなたが話を聴く時間を取るか、地域包括支援センターの職員、ケアマネージャーの専門家につなげてください。
主介護者の「ストレス」「憎しみ」「虐待」
次に、ストレスや憎しみなどの感情をどれくらいの人が感じているのでしょうか?
日本労働組合総連合会(連合)の「要介護者を介護する人の意識と実態に関する調査2014年2~4月実施」です。
介護負担の介護者への影響を調べた資料が載っています。具体的には、主介護者の「ストレス」「憎しみ」「虐待」を調べています。
「ストレスの有無」をみると、「非常に」と「ある程度」を合わせた(ストレスを感じている)という人は80.0%に達しています。
「憎しみの有無」を見ると、感じている人は、35.5%です。そして「虐待の有無」を見ると、虐待有は、12.3%です。
この調査は、かなり細かく主介護者のグループを分けており、現介護保険サービスを利用して「続けていくことができる」と思うグループ、サービスを利用しても「続けていけない」と思うグループ(介護状態が重いと思われる)、そして認知症をもった人を介護するグループ(このグループは、認知症の段階を4つに分けています。
「症状はあるが日常生活に問題はない」「症状はみられるがサポートがあれば日常生活ができる」「介護が必要なほど日常生活に支障をきたす症状がある」「著しい精神症状や問題行動がみられ、専門医療を必要とする」)となっています。
先ほどのデータは、全グループ総数の結果でしたが、このグループ毎に結果をみてみると、グループが重くなるにつれて、ストレス・憎しみ・虐待の数値が増える傾向にあります。
認知症の一番重い状態である「著しい精神症状や問題行動がみられ、専門医療を必要とする」グループは、ストレスを感じる92.3%、憎しみを感じる69.2%、虐待有り26.9%となります。
特に、認知症の方を老老介護することになると、9割以上の方がストレスを感じることになるようです。
この資料から読み取れることは、介護に関わる介護者は、相手にストレスを感じるし、相手を憎むような感情を普通に感じるということです。
介護に関わってくれる人達を増やすのがコツ
これから介護に取り組むことになるみなさんは、この先輩達の悩みについて、自分なりにどのように解決するのか?という解答を持つことになると思うのです。
私は、特に老老介護を行なう皆さんは、子ども世代が親の世代を介護するみなさんと比べて、小さくまとまって少人数で介護をするのではなく、枠を大きく広げて、介護に関わってくれる人達を増やす方向が良いと思います。
介護は、いろいろな人達に迷惑を掛けるから、周りに介護の話をしないで、こぢんまりと対応しようと考えている方が多いかもしれません。
老老介護で、小さくまとまると、あっという間に「無理!」という日が来てしまいます。
<老老介護のコツ(枠を広げるヒント)>
- 1人でがんばりすぎない(1人で、全部に対応するのは無理です)
- 介護のプロに頼む選択肢を選べるようにしておく(制度を知る、お金の準備)
- 困ったら家族や近所の誰かに助けを求める(血縁、地縁、社縁を有効活用)
- 自分なりのストレス発散方法をもっておく(1人の時間を楽しむ)
- 愚痴を話せる友人・専門家をもっておく(いくつになっても友人作りは大切です)
この記事を書いた人
橋谷創(橋谷社会保険労務士事務所代表、株式会社ヴェリタ/社会保険労務士・介護福祉士)