【プロが語る!】介護業界を大きく揺るがしている「総合事業」とは?

アイキャッチ下テキストリンク

今回は、介護業界を大きく揺るがしている「介護予防・日常生活支援総合事業(略:総合事業)」についてお話ししたいと思います。

以前ご紹介した「地域包括ケアシステム」を支える、大きな柱がこの総合事業です。

Adsense(SYASOH_PJ-195)

介護予防と生活支援の対策

「地域包括ケアシステム」は、2025年までに、できる限り、住み慣れた地域で自宅での生活を続けられるように、中学校区を1つの生活範囲として、自宅でのケアを支援する拠点を複数作り、「医療・介護・介護予防・生活支援・住まい」の5つのサービスを、一体的に受けられるような体制を作っていくという考え方です。

この5つの中の、介護予防と生活支援の対策がこの総合事業になります。

このシステムの要は、要介護度が重い方も、地域での生活を長く続けていくために、今以上の医療と介護の連携が必要になるのですが、その連携が上手くできたとしても、介護度が重い方が増えすぎてしまうと、スタッフ数とご利用者数のバランスが取れずにパンクしてしまうことになります。

それを防ぐために、医療介護スタッフをどこに集中させるか? 今までとは違ったやり方で、重度化を防ぐ、介護予防・生活支援を充実させることが、鍵となります。

介護予防と生活支援を目的に、介護予防・日常生活支援総合事業は設立されました

今までは、要支援者向けの介護予防給付や、介護認定の一歩手前の方々=特定高齢者向けの地域支援事業の介護予防事業が、その責任を負っていましたが、このあたりを27年度から「新しい介護予防・日常生活支援総合事業」としてリニューアルして、再スタートを切りました。

今後3年間の間に、各市区町村は、この総合事業を順次始めることになっています。

サービスの提供方法

これは今までのモデル事業の中から、多様化するサービスの典型的な例として厚生労働省が参考に示しているもので、地域の実情に合わせて、これらの類型の中から、自治体がサービスの類型を決定し、実施していくことになります。ですから、もしかするとお住まいの自治体には、見当たらないサービスもあるかもしれません。

介護予防・日常生活支援総合事業の構成

厚生労働省 「介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン案(概要)」より

訪問型サービス

訪問介護(現行の訪問介護相当)、②訪問型サービスA(緩和した基準によるサービス)、③訪問型サービスB(住民主体による支援:ボランティア)、④訪問型サービスC(短期集中予防サービス:保健・医療の専門職)、⑤訪問型サービスD(移動支援)

通所型サービス

①通所介護(現行の通所介護相当)、②通所型サービスA(緩和した基準によるサービス)、③通所型サービスB(住民主体による支援:ボランティア)、④通所型サービスC(短期集中予防サービス:保健・医療の専門職)

この①は、現行の介護予防訪問介護、介護予防通所介護に相当するサービスです。全国一律の人員基準で運営されています。現時点では、平成30年3月までは、現行のままですが、次回の平成30年4月の改定時に、基準や報酬が変更する可能性は高いです。

②③が、地域の多様な主体を活用する類型になります。②は①の全国一律の人員・設備基準を緩めたものです。すでにサービスAを始めている自治体の基準を見ると、通所介護では、生活相談員の配置が外されていたり、利用者1名あたりの面積が狭くなる形で基準が緩められています。

サービスBは、地域住民のボランティア組織(NPO)によるサービス提供を想定しています。訪問であれば、生活援助(掃除、洗濯、調理、買物など)を行ないます。通所は地域内にある空き屋や古民家、小学校などの空き教室などを活用して、サービスを提供するような類型です。

サービスCは、例えば退院後3~6ヶ月間という期間を決めて、訪問では、保健師が自宅を訪問して、体力の改善に向けた支援をしたり、通所であれば機能訓練をするような、やや医療よりのサービスになります。

サービスDは、訪問しか有りませんが、通所サービスの前後の準備後片付け、外出支援などです。

総合事業は、今までの「専門的なサービスを必要とする人には、専門的なサービスの提供を継続する(現行相当サービス)」、そして選択肢を広げ「多様な担い手による、多様なサービスは、多様な単価設定があって良い」ということになっています。この専門的サービス・多様なサービスのバランスを取り、提供することが、これからの自治体に求められます。

ボランティアの育成について

最後に、総合事業で、特に問題になっているのが、この多様な担い手をどうやって増やしていくのか?です。

27年度末から、各自治体でボランティアの育成が始まっています。
特に訪問サービスは、ご自宅を訪問して、その自宅内でのサービス提供になるため、今までは最低130時間の介護職員初任者研修の資格が求められていました(通所サービスは、無資格でも働くことが出来ます)。

このサービスBの、生活支援のボランティアに関しては、初任者研修のような身体介護中心のサービスではなく、生活援助中心のサービスであることもあり、2日間18時間ほどの研修で、自治体独自の資格を取得出来て、サービスが行えるようになっています(自治体によって、内容も時間も異なります)。

ただ、ボランティアというのは「自主的に社会活動などに参加し、奉仕活動をする人のこと。また、奉仕活動そのものを指すこともある」(wikipedia)にあるように、災害ボランティアを含め、様々なボランティア活動があります。

介護の仕事に限定して、それも長期にお願い出来るものなのか?正直、どれくらいのボランティアが、現在のホームヘルプやデイサービスのスタッフのような役割を、担いたいと思っているのか!疑問はあります。

今後は、地域包括支援センターの業務の1つに、生活支援サービスの体制整備(コーディネーターの配置、協議体の設置等)が追加されていますので、区市町村と地域包括支援センターが協力してボランティアを育てて、コーディネーターがボランティアとボランティア先をマッチングするような形になっていくと思われます。

地域コミュニティーとアクティブシニア

定年後も積極的に活動している高齢者(アクティブシニア)

現在、介護保険は「共助」ですが、総合事業では「共助」+「互助」になります。そして、総合事業の担い手のひとつとしてアクティブシニア(定年退職後も、趣味やさまざまな活動に意欲的なシニア層)の活用が考えられています。

自分達の地域コミュニティーを育てていくこと(アクティブシニアが、自分や家族以外の方への支援を行うこと)で、自分達も安心して老後を迎えられる地域になっていきます。

今後は、「公助」「共助」の使い勝手が悪くなり(対象者を制限することになるため)、その分「自助」が増えていきます(介護保険外サービス、自費サービスの増加)。

とはいえ、何でも「自助」というわけにもいきませんから、それを補う「互助」が、みなさんの生活にどんどん入ってくると思います。総合事業は、「共助」だけではなく「互助」を促進するための仕組みがあります。

特に、定年退職された65歳以上の方が、自分の時間の一部を地域コミュニティーで活躍することで、地域のみなさんも安心できますし、担い手側の満足度も上がっていきます。

そして、何十年後に、自分への支援に戻ってくるという形になると思います。

互助を中心としたサービスに移行?

今後は地域住民やボランティアが提供するサービスに移行していくことになります。

そして、今後は特に生活支援の部分ですが、徐々に介護保険の給付としての公的サービスから、互助(費用負担が制度的に保障されない)を中心とした、地域住民やボランティアが提供するサービスに移行していくことになります。

現時点では、家事援助、交流サロン、声かけ、コミュニティーカフェ、配食+見守り、介護者支援、外出支援、食材配達、安否確認、移動販売、権利擁護などが考えられていて、徐々に行なわれ始めています。

このようにして、医療介護スタッフを、重度な方に集中させ、軽度者には今までのサービスではなく、さまざまな人達が関わる形で、地域の実情に合った介護予防サービス、生活支援サービスを提供することになります。

地域によって、さまざまなニーズがあり、どれを公的に支援して、どこをボランティアにお願いするか? そして、ボランティアや今後のケアにかかわる人材をどのように育てていくか?などなど、これから準備して、実行していくことがたくさんあるなぁと感じました。

総合事業の認定

総合事業を受けるためには、行政の介護保険課もしくは地域包括支援センターの窓口に行き、「基本チェックリスト」を自分で記入することになります、その後担当者から内容を確認されます。

この時に明らかに、介護保険サービスを利用したいと思っていて、要介護認定申請を希望する人は、チェックリストの記入は行ないません。

またとても御元気で、事業対象者ではないと判断され、総合事業の一般介護予防事業を希望している人も除かれます。

このチェックリストの回答により、事業対象者と判断されれば、その場でサービスを利用するためのケアプランの申込みを行ないます(介護予防ケアマネジメント依頼もしくは介護予防サービス計画作成依頼)。

そうすると、後日ご自宅で介護予防ケアマネジメントのアセスメント(事前評価)を受けることになり、プランが決定されます(この時に、具体的なお困り事を聴かれることになります)。

その後、事業対象者と記載された介護保険被保険者証が自宅に届きます。

この記事を書いた人

橋谷創(橋谷社会保険労務士事務所代表、株式会社ヴェリタ/社会保険労務士・介護福祉士)

葬儀・お葬式を地域から探す