訪問看護の新たな取り組み。ご家族たちと一緒につくり上げた「遺族会」

東京・金町にある「訪問看護ステーション はーと」がこの春開催した、「遺族会 さくらさくら」。ご家族たちと一緒につくり上げたこの会は、訪問看護の新しい取り組みとして、注目を浴びています。

今回は、木戸恵子代表取締役から、「遺族会 さくらさくら」を開催するまでの道のりや、これからのことについて、お話を伺いました。

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関わった人たちみんなが今後につながるきっかけづくりをする場が必要だと思っていました

――どうしてこのような会を開くことになったのですか?

私たちの訪問看護ステーションでは、お看取りに関しては開設当初より、力を入れて取り組んでいます。その中で、いろいろな最期、終末期に出会ってきました。

ナースたちも出来る限りのことを尽くしますが、それでも最終的にご家族に負担がかかってしまったり、誰かが力尽きてしまったり、旅立つご本人様も心の片隅に切なさやさみしさを持ちながらも旅立たれたり。

悲しい体験やむなしい体験も、数多くしてきました。

ところがこの数年、お看取りを取り巻く環境も変わってきました。訪問看護も在宅医療も、グリーフケアに力を入れられるような仕組みができてきています。

 

ただ、ご家族もナースも緊張する中で、どこか「本当に最後まで、支えきることができたか?」という若干の想いが残ることもあります。

旅立った後も、私たちナースが長い時間をかけて、心が癒されるまでお付き合いができているかというと、通り過ぎてしまうことも多いなと感じることもあります。

でもご家族には、悲しみや淋しさ、体力的な疲労など、いろいろなことを含めても、「やっぱりこれで良かった」と、「無事に旅立ちできた」と、そんな気持ちになってほしい。

どこかで振り返ったり、励ましあったり。関わった人たちみんなが、勇気を認め合い、今後につながるきっかけづくりをする場が必要だと思っていました。

ご家族の心情を思うとスタッフの意見も分かれ、一度はくじけてしまいました

――遺族会「さくらさくら」の開催にあたって、一番苦労したことは何ですか?

賛同者、仲間、チームの気持ちを1つにするのに1年かかりました。

計画としては2年前から遺族会をしたいと思っていましたから、文献を調べたり、経験者の話を聞いたり、少しずつ準備を積み重ねてきました。でも、ちょうど1年前、計画はくじけてしまいました。

スタッフの意見が分かれたんです。

ご家族の心情を思うと、「個人的な事柄を集団でイベントとして行うのはどうか?」とか「精神的に崩れてしまう人もいるのでは?」とか、意見がありました。

 

それだけ意見が出るということは、自分たちの心の整理もできていないということ。

ならばまだ開催するべきではないと、しばらく流れを見ることにしました。

その後、1年で120名ほどの方の最期に寄り添わせていただき、ナースはご家族の健康状態や未来のことなどを心配し、その後も頻繁に足を運んでいるということが、改めてわかりました。

「近くまで来たから寄らせてもらったわ。どうしてる?」というように、行き来しているのです。

1人ひとりがここまで関係性を築けているのなら、みんなで集まった時には、何か新しい相乗効果が生まれるかもしれない。みんなの了承が得られれば、今年こそは開催したいと思ったんです。

――「今年は大丈夫」と決断できたのはどんな瞬間でしたか?

みんなが同じような経験をしているのがわかった時、次のステップにつながる時期だと思いました。

あとは明るいネーミングができたこと。

「偲ぶ会」にしてしまったらご家族との間に温度差がありそうだし、暗いイメージになりそうです。そうではなくて、「さくらさくら」という、桜の咲く時期にお花がいっぱいの中で、みんなで将来のことを考えられるような、「卒業式と入学式をみんなでやろうよ」というようなネーミングが浮かび、スタッフ全員で想いを共有するタイミングがつくられました。

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地域が一体となって、お互いで支えあう。私たちの想いが一歩前進したような感じです

――実際に開催されてみて、どうでしたか?

一番悩んだのは、お誘いのはがきの文面づくり。

はがきをお読みになった方が「みんなに会えるかな」とか「ここに行くと前に進めるかな」とか。そんな風に思えるものにしたかったのです。大切なポイントの1つだと感じていました。

また、「このご家族だったら、きっと喜んでくださるかな」と思うところからお返事がないときは、ナースからお電話を差し上げたりもしました。

ご高齢のご家族も多く、郵便物をご覧になっていない方もいらっしゃるようなので、その対策も考えていかなければならないと感じました。

来てくださった方々は早めにお返事をくれた方が多かったです。前向きに考えてくださったんでしょう。

――お手紙はもらっても嬉しいですよね

地域ってこういうものなんだというのがよくわかったのは、お手紙が届いたご家族同士でが「一緒に行かない?」と誘い合って「私たち3人一緒に行くから」というお電話をいただいたとき。

温かい地域性ですよね。地域が一体となって、お互いで支えあうという私たちの想いが一歩前進したような感じです。おそらく患者さんがご病気の間も、経験談とか、介護の工夫などお話合いをされてきたお仲間だったんじゃないかと思います。

高校時代からのお友達だったという方もいました。

お元気だった頃は、そんな話題はありませんでしたし、個人情報だからほかのご家族のことをお話しすることもありません。でも「さくらさくら」を開いたことで、それまで全く気付かなかった地域のつながりを知ることができた一面もありました。

「そんなところまで見てくれてたんだ」と思うと、明日のケアの自信が付きます

――会を開いたことで、担当ナースさんやご家族に変化はありましたか?

「あの時ナースさんに肩を支えてもらって、こんな風に声をかけてもらったのよ」とか、「私の健康状態も気にかけて、マッサージしてくれたのよ」とか。ほんのちょっとの出来事をきちんと覚えてくださる方が多かったです。

ナースは必死にケアをさせていただく中で、戸惑うこともあります。それが、「そんなところまで見てくれてたんだ」と思うと、明日のケアの自信が付きます。

 

私たちのステーションでは、1人の患者さんにスタッフ3人が関わります。

メインの人とそれを支える人。ですから、ご家族との関係も、お会いする回数やお話を伺う頻度で変わります。

でも、回数ではなく、支える気持ちは同じです。

「あなたが支えてくれたから私も頑張ることができた」という仲間の言葉があり、そこにご家族が笑顔で「みんなのことを覚えている」と言ってくれる。メインの人だけではなく、陰ながら支えてくれた人のことも覚えていてくれている……。

ひとつひとつが成功体験につながっています。

 

ドクターも同じです。ナースほどは接していないけれど、そのチーム意識が新たに確認できた。「こんなチームがこの町にあったら、絶対安心」と言ってくださったご家族もいました。

そんないい効果があったと感じています。

私たちが開いた遺族会ではなく、みんなで開いた遺族会でした。

お互いを温めあう会になれたと思います。

改めてお顔を見て、落ち着いた状況で振り返れたからこそ、旅立ちを一緒に支えた仲間、戦友になれたのかなと思います。

――みんながお互いを認め合うような、そんな温かい感じが伝わってきます。

ナースは、すべてベテランがいいとは思っていません。新人の若いナースの新鮮な考え方や工夫のしかたや、危なげなところも、そのお家に合っていれば、一緒に転がりながら考えるのでいいんです。

でも「先輩のように上手にできなかった」とか「あの時の失敗が、ご家族に自分の至らなさを見せてしまった」と悩むスタッフもかなりいます。

スタッフにはスキルの違いはありますが、今回の遺族会で「あなたのそれで良かった」「私の家に来てくれたあなたが良かったのよ」と、みなさん声をかけてくれていました。

 

先輩や同僚が「良い」と言ってくれるのとご家族が「良い」というのではまた違います。みんながそこで、1つ次のステージに進めたんじゃないかなと思います。

「スタッフを癒やす、認める」にもつながりました。

これからは、これまで生死にかかわりのない仕事だった方が、お看取りをしていかなくてはならない時代です。

自分のすべてをささげるくらい力を注いでお看取りをした後に、燃え尽きてしまったという出来事はたくさんあります。その後しばらくは仕事に復帰できなくなるくらい、自分の立て直しに時間がかかる……。

その方々にまた元気にお仕事していただくためにも、こういった会は必要になると思います。

患者さんが旅立ったことに、いつもいつも切なく寂しい気持ちがあるんです

――「さくらさくら」ではメッセージを書いてくださったり、皆さんが想いを伝えていました。

素敵なメッセージカードがたくさん集まりましたね。

一言では言えないくらいのものです。

堪えられない気持ちがいっぱい込み上げてしまう時、旅立った方とのことを思い出すちょっとした瞬間とか、命日とか…

そんな時に、大切な方へのお手紙を書く時間を持つと、心の整理と、一歩前に踏み出す、自分の人生を振り返る時間になるんじゃないかなと思います。

 

ナースも家族のように大切に感じていた患者さんが旅立ったことに、いつもいつも切なく寂しい気持ちがあるんですね。

グリーフカードの大切さも、改めて感じました。

こみあげてきた想いをメッセージカードが受け止めてくれたから、また落ち着いた時間に帰れる

――みなさんすごくうちとけた感じで、気持ちを表に出せたのではないでしょうか?

「さくら さくら」では、すべての方がご自分の気持ちをざっくばらんにお話し下さったように思います。

照明や音楽で心が緩やかになった一時間半の流れの中で、誰もが気持ちのコントロールができるようになっていました。

落ち着いた感じで始まって、その時のことも思い出しながら献花があって。最後はこみあげてきたものをメッセージカードが受け止めてくれたから、また落ち着いた時間に帰れる。

すごくいい時間だったと思います。

――こうした会はこれから広がっていきますか?

北海道の訪問看護ステーションの方からちょうど今日、絵葉書が届いて、「遺族会いかがでしたか? 早速、自分たちでも開いてみたいです」と書いてあったんです。

北海道でも遺族会を開いてくれるのかなと。すぐに広がるんです。

おそらく、もともと心の中にみんなが持っていたんだと思います。方法論をここで見て、勇気を持てたということなんだと思います。楽しみです。

あちらこちらで種まきを続けながら、広げたいと思います。

こうした成功体験、もしくは若干の手際の悪さがあったとしても、それをきちんとした形でみなさんにお伝えすることが、私の仕事だと思っています。

 

これまでも私たちのステーションの事業やイベントなどは公の場で報告し、評価をしてくださる方々も大勢います。そして評価を受けながら、今後のことも考えています。

今回の「遺族会 さくらさくら」も、訪問看護ステーションの新たな活動として、お金の営利ではなく心の営利につながることとして、公の場できちんと報告させていただきたいと、今準備しているところです。

さまざまな課題の中で、お互いがお互いをそっと支えあう街づくり

――今後、この活動をどのように発展させていきたいですか?

すごくデリケートなものですから、もう一度、みんなで話し合って進めていくべきだと考えています。これからは、地域の文化や特徴も取り入れながら、「地域で支えていく」ということが大切なのではないでしょうか。

人口が減る中で、残った方は協力してやっていかなければならない。さまざまな課題の中で、お互いがお互いをそっと支えあう街づくりが必要になってくると思います。

グリーフケアについての認知・理解がもっと広まれば、地域で亡くなることが怖くなくなるでしょう。病院志向が減って、医療費の節減にもつながりますし、お金の面だけではなくて、心とか、街づくりとか、意識のところで変化が生まれてくるかもしれません。

 

もしかしたら地域の企業が、遺族会やお別れ会を一緒にやってくれるようになるかもしれないですね。

例えば大学など、大きな会場を持っているところが「そういったことのためなら、いつでもどうぞ」って言ってくれれば、そういったところを借りながらできるでしょう。

印刷会社さんが率先してアイデアを一緒に考えてくれれば、私たちの文章力のないところを支えてくれるかもしれないし。

協力してくださる方と頭をひねりながらその中でできることを、後につながること、長続きできることをやりたいと考えています。

『Story』さんにも、企画から、運営の仕方から、いろんなことを支えていただきました。

来年は、お彼岸に合わせて春と秋2回とか。ご家族と直接顔を見せあって、お互いが安心するということなら、年に何回あってもいいですよね。

 

(文 小林憲之)

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