国内で初めて新型コロナウイルス感染症による死亡者が出たのが2020年2月13日。その後、厚生労働省が感染者の火葬についてサイト上で公開したのは2月25日のことでした。
当時は新型コロナウイルス自体についての情報が圧倒的に不足しており、感染力がどの程度か?主な感染経路は?など、はっきりしていませんでした。
それから約半年が経過し、計1,000人以上もの死者が出るに至った今までの間に、徐々に情報が拡充。コロナウイルス感染症により亡くなった方(またその疑いがある方)に、どのように対すれば良いかがはっきりしてきました。
そこでこの記事では、厚生労働省・経済産業省が定めるガイドラインを元に、コロナウイルス患者の遺体との“正しい接し方”をお届けします。
目次
遺体からの感染リスクについて
新型コロナウイルス感染症は、一般的には飛沫感染、及び接触感染によって感染するとされています。こと遺体との接し方…と考えると、前者の心配は無用であり、大切なのは接触感染を防ぐ、ということになります。
後者についてはWHOのガイダンスを参照します。コロナウイルス患者の遺体から感染する根拠はないとされており、あくまで「手指衛生の徹底」に気をつけてさえいれば、感染リスクを大幅に下げられると考えて良いでしょう。
遺体のケアは葬儀社や葬儀場のスタッフに任せることが多く、遺族は直接的に触れる場面は少ないでしょう。そのため、接触感染を防ぐためには、
- 顔(目・鼻・口)の粘膜を守る
- 手をきれいにする
の2点を徹底することが大事。接触感染のリスクがある状況では、不用意に人や物に触れないことはもちろん、自分自身にも触れないようにしましょう。
飛沫感染とは
感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つば など)と一緒にウイルスが放出され、他の方がそのウイルスを口や鼻から吸い込んで感染します。
接触感染とは
感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りの物に触れると感染者のウイルスがつきます。他の方がそれを触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触ると粘膜から感染します。
遺族が濃厚接触者の場合の葬儀や通夜、拾骨について
症状を発症している場合
新型コロナウイルスに感染し、かつ症状を発症している遺族については、通夜や葬儀はもちろん火葬や拾骨、またそれにともなう打ち合わせについてもご遠慮いただき、オンラインでの参加をお願いされています。
無症状の場合
たとえ無症状であっても、濃厚接触者の定義にあてはまる遺族については、対面を避け、オンラインを活用するなどの取り組みが推奨されています。
しかし、一括してNGかというとそうではなく、「感染対策の徹底」を条件に、通夜・葬儀や火葬、拾骨も検討して良い、とされています。
臨終後の感染対策
入院患者に対するお見舞いなどの面会には、現在、制限をかけている病院が多く見かけられます。しかし前述した通り、遺体からの感染については徹底した対策のもとでコントロールが可能であり、死後であればその限りではありません。
実際に、厚生労働省・経済産業省のガイドラインにも、以下のように定められています。
遺族等の方は悲しみと不安を抱えておられますので、お気持ちに寄り添いながら対応を行ってください。病室でひと時のお別れの時間を設けることも考えられます。
「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」より
ただしこれには、あくまで「徹底した対策のもと」という前提があります。
厚生労働省・経済産業省のガイドラインには遺族向けのガイダンスと同様に医療従事者に向けての記載もあり、遺族向けには「適切に感染対策を行い、安全に臨終後の対応が行えるように、医療従事者の指示に従ってください。」とあります。
一方で医療従事者に向けての記載は以下の通り。
・遺体からの感染を避けるためには、接触感染に注意する必要があること
・接触感染に対しては、手指衛生の徹底等、一般的な感染対策を行うことで十分に感染のコントロールが可能であること
・思わぬリスクを避けるため、遺体等を取り扱う事業者の指示に従うこと
・24 時間以内の火葬が可能であるが義務ではないこと
「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」より
つまり、感染対策を十分に行ったうえであれば、臨終後に家族がお別れの時間を持つことは可能である、ということになります。
遺体搬送の感染対策
遺体搬送時においても、感染対策は主に接触感染の対策と同様です。
そもそもコロナ死亡者については、「非透過性納体袋」と呼ばれる袋に遺体を収容することが推奨されています。その適切な管理=感染対策の徹底により、新型コロナウイルスの感染を防ぐとされています。
ガイドラインには、遺族の方に対して「適切に感染対策を行い、安全に遺体を搬送できるように、遺体等を取り扱う事業者の指示に従ってください。」との記載があります。
一方で事業者に対しての記載は以下の通り。
・必要に応じ体温を測定し、体調不良の方は会葬を控えること
・マスクを着用し、人との距離(可能な限り 2m)を意識すること等の一般的な感染対策が求められること
・会場のスペースによっては、人数に制限を設けること
・非透過性納体袋を開封しないこと
・施設内では、係員の指示に従うこと
「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」より
こちらでも、昨今では一般的となりつつある感染対策を徹底することで、遺族はもちろん関係者への感染を防げる、とされています。
通夜・葬儀の感染対策
通夜・葬儀の感染対策においては、コロナ死亡者というよりも、参列者間で感染が起こらないか…という観点から執り行われる機会が少なくなっているのが実情です。
ガイドラインにもその旨の指摘がありますが、同時に「今後の社会状況の変化や遺族等の方の意向を踏まえ、執り行うことが可能かどうか検討してください。」との記載もあり、必ずしも不可能ではない、とされています。
では、どのようにすれば通夜・葬儀が可能になるのでしょうか。ここでも、遺族に向けては「適切に感染対策を行い、安全に通夜、葬儀が執り行えるように、遺体等を取り扱う事業者の指示に従ってください。」との記載が。
一方で事業者に対しての記載は以下の通り。
・必要に応じ体温を測定し、体調不良の方は会葬を控えること
・マスクを着用し、人との距離(可能な限り 2m)を意識すること等の一般的な感染対策が求められること
・会場のスペースによっては、人数に制限を設けること
・非透過性納体袋を開封しないこと
・施設内では、係員の指示に従うこと
「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」より
通夜・葬儀におけるコロナウイルスの感染対策においては、以前にも「いい葬儀」で公開しているので、以下の記事もぜひご覧ください。
新型コロナウイルスへの葬儀社の対応/マスク着用・消毒の徹底は100%
2020年5月7日公開。刻々と変化する状況の中、葬儀社各社がどのような対応を取っているのか、アンケート調査を行いました。その結果、各社ともに感染予防対策で考えられることを徹底している様子がうかがえます。
葬儀を行う、または参列する予定の方が気を付けたいこと
2020年4月8日公開。不要不急の外出を控え、三密(密集、密閉、密接)を避けるよう、呼びかけられる中、お葬式を執り行う喪主や、弔問に訪れる参列者はどのような点に気を付ければ良いでしょうか。
法事法要どう変わる?四十九日法要は?納骨法要は?
2020年4月28日公開。要不急の外出や、「三密」(密集、密閉、密接)を避けるよう呼びかけられる中、お葬式の後に行われる四十九日法要や一周忌、三回忌といった年忌法要など、法事法要も例外ではありません。
ご遺族からいただいたご相談や、お坊さんへの取材をもとに、法事法要の変化についてまとめています。
拾骨時の感染対策
コロナウイルスは100℃を超える温度で死活するため、拾骨時に関しては、遺体からの感染リスクはありません。
ガイドラインにおいても、「(前文略)拾骨できる場を、可能であれば設定できるように検討してください」とあります。
ただし、拾骨をするということはつまり、個人とかなり近しい関係にあると考えられます。つまり、濃厚接触者である場合が多く、前項でも触れたとおり、遺族が濃厚接触者の場合の葬儀や通夜、拾骨についてはより徹底した感染対策が必要です。
ガイドラインにおいても、遺族の拾骨に関しては「感染対策について共通の理解のもと拾骨が執り行えるように、会葬者は火葬場従事者の指示に従ってください。」との記載があります。
一方で、火葬場従事者に対しての記載は以下の通りです。
・火葬後は、通常どおりの拾骨に関する業務を行います。
・100℃を超える温度にさらされたウイルスは失活することについて、遺族等の方に説明します。
・拾骨後、台車、ドアノブ、手すり、テーブル等については、定期的に清拭消毒を行います。
「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」より
新型コロナ死者との接し方・感染対策についてのQ&A
最後に、新型コロナ死者との接し方・感染対策に関するよくある質問とその答えについて、ガイドラインから抜粋してご紹介します。
Q.
新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の遺体は、24 時間以内に火葬しなければならないのですか。
新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の遺体は、24 時間以内に火葬することができるとされており、必須ではありません(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 30 条第 3 項、新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令第 3 条)*。
*通常、24 時間以内の火葬は禁止されています(墓地、埋葬等に関する法律第 3 条)。
Q.
新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の遺品の取扱いはどのようにすればよいですか。
新型コロナウイルスの残存期間は、現時点ではプラスチックやステンレス表面で 72時間、その他の素材ではそれ以下と確認されています。また、新型以外のコロナウイルスの研究では、6~9 日を残存期間と報告しているものもあります。
以上を踏まえると、必要に応じて清拭消毒を行えば、遺品の取扱いは通常どおりに行って問題ありません。現時点では、一定期間(10 日間程度)保管することにより、消毒の代用とすることも可能と考えられています。
(参考)国立感染症研究所:新型コロナウイルス感染症に対する感染管理 環境整備
Q.
新型コロナウイルスの感染対策が求められている状況で、葬儀、火葬等を執り行う際に注意すべき点は何でしょうか。
新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方の葬儀、火葬等に限らず、通常の葬儀、火葬等においても、遺族等の方、宗教者、会葬者、遺体等を取り扱う事業者が会することによって起こり得る接触感染及び飛沫感染が想定されます。
これらは、一般的な感染対策でコントロールが可能であり、『葬儀業「新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドライン」』等を参考にしながら対策を講じます。
Q.
新型コロナウイルス感染症により亡くなった方を土葬することはできますか。
新型コロナウイルス感染症においては、感染症法第 30 条 2 項に基づき、新型コロナウイルスの病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある死体は火葬を原則とすることとされていますが、都道府県知事の許可がある場合は土葬を行うことができます。
WHOのガイダンスによると、感染症により亡くなられた方を火葬しなくてはならないということではなく、火葬するか否かに関しては、文化等の要因によるものとされています。遺体に触れる際の具体的な取扱いについては、「3-1. 非透過性納体袋の開封について」に従ってください。
Q.
遺体からの感染リスクが低いという根拠は何ですか。
新型コロナウイルス感染症は、感染者の咳やくしゃみ、つば等による飛沫感染や接触感染で感染すると一般的には考えられています。したがって、咳やくしゃみをしない遺体からの飛沫感染のリスクは低く、接触感染対策を講じることでコントロールが可能です。
WHO のガイダンスにおいても、遺体の曝露から感染するという根拠は現時点(2020年3月24日版)では低いとされています。
Q.
遺体を動かしたときに、咳やくしゃみのように、肺の拡張・収縮により飛沫が発生しますか。また、飛沫感染の原因となり得ますか。
死後硬直で肺の拡張や収縮は起きないため、遺体を動かしても飛沫の発生はないと考えられます。
しかし、遺体を動かした際に体液が漏出する可能性はあり、それが飛沫となって飛び散る可能性はゼロではないものの、生きた感染者もしくは治療中、生存中の感染者と異なり持続的にウイルスを含む飛沫が体外に放出されることはなく、解剖のような特別の処置を行わない限りは遺体からの飛沫感染のリスクは低いと考えられます。
Q.
死亡前又は後の PCR 検査結果が陰性だった遺体の取扱いはどのようにすればよいですか。
医師が総合的に判断し感染性がないとした場合は、通常の遺体と同様に取扱っていただいてかまいません。