【終活映画】人生のお手本は過去に、夢や目標が周囲も自分自身も元気にする。『ぶあいそうな手紙』

ことばの壁、世代の壁を乗り越える愉快体験が出来る映画、人生いくつになってもまだまだ楽しむことがありそうだと、そんな思いすらしてしまいます。『ぶあいそうな手紙』を鑑賞しました。

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若かりし頃、密かに想っていたひとからの手紙

ウルグアイからブラジルの小さな町ポルトアレグレに移り住んで46年、妻を失ってから長い間、ひとり暮らしを続けながら、隣人ともいい関係を築きながら暮らしている、そんな主人公、エルネスト。78歳という年齢もあって、それなりに頑固で融通がきかなさそうなイメージで映画は始まりました。

都会のサンパウロに住む息子の誘いへの反応も、長年住んだこの家を離れたくないという思いをひしひしと感じさせてくれます。まあ、どの国にも関わらず長い間に生きてきた場所や空気から離れるのは寂しくもあり不安でもあります。

そんな彼のもとに、ウルグアイにいたころに親しくしていた女性からの手紙が舞い込んできました。若いころに密かに思いを寄せていた女性でもあり、彼女の夫もまたエルネストの友人でもありました。

突然の、そして久しぶりの手紙にエルネストはその中身が気になるのですが、視力が衰えていて文字を読むことができません。

隣人ハビエルに読んでもらおうとするのですが、その内容に逐一、意見を挟んでくるのには、エルネストも閉口してしまいます。ヘルパーに頼んでもみたのですが、ブラジル人の彼女にはスペイン語で書かれたウルグアイからの手紙は何とも難解でした。

そんな時に、ひょんなことから一人の娘ビアと知り合います。奔放すぎるビアの性格や、近づいてくる目的もエルネストにはお見通しなのですが、楽しむようにビアの出入りを受け入れながら、エルネストはいつしかビアの奔放さにひかれ、手紙の代読を頼むことになります。

一生懸命に聞き・話すコミュニケーションの楽しさ

映画の中ではスペイン語とポルトガル語が入り混じったやり取りがあるのでしょう。陸続きの国なので、こうしたやり取りが日常の中でも普通にあるようですが、字幕映画にありがちな注釈などなく、観やすく楽しむことができます。

そのやり取りがとても自然で普通に見えるのは、スペイン語もポルトガル語も言葉を知らない私だからというわけでもないのでしょう。

エルネストとビアの一方は読み聞かせ、もう一方はその言葉の意味を解説しながらと、言葉を伝えたり教えたりという、年齢の離れた2人のやり取りだからこそ、余計に温かく感じたのかもしれません。

余談ですが、その昔、九州の友人に東北の知り合いを紹介した時のことを思い出しました。同じ日本語なのに何を言っているのかさっぱりわからないという友人の言葉に、両親が東北人であった私が、少しずつ解説を添えて会話した時、若かりしときの想い出ですが、一生懸命に聞く、一生懸命に話すというコミュニケーションは何ともすてきな時間を作り上げるという楽しい経験でした。

さて、読み解かれるまでなんとも表情の見えなかったその手紙には、エルネストが想いを寄せていた女性の夫が亡くなって、寂しい日々と共に若かりしその昔に過ごしたエルネストへの想いが綴られていました。

その頃の想いが蘇ったエルネストは、生活に色が付くように様子が変わります。またビアはそのロマンチックな手紙に高揚し、返事の代筆を自ら買って出て、ビアを介した文通が始まるのです。

乱暴な男から逃げ出すようにしてきたビアと、そんなビアをかくまいながら暮らしの変化を求めるエルネスト。「若い娘には気をつけろ」という隣人のハビエルやヘルパー、そして息子ラミロの心配をよそに2人の信頼関係は深まってゆきます。

後悔だけはしたくないという強い想い

そんなある日、隣人ハビエルの妻が突然倒れ、帰らぬ人となった時から、エルネストの気持ちが大きく変化しました。

「今のままでいい」「この暮らしを変えたくない」と言ってとどまっていたエルネストでしたが、彼の中で、暮らしを変えずにこのまま終焉を模索するのか、それとも、もう一度情熱的に、そして最後まで元気に生き生きと暮らしてゆくのかという葛藤が生まれたのでしょうね。78歳の終活、後悔だけはしたくないという強い想いが湧いてきたのでしょう。

ラストシーンでは、視力の衰えた彼の大冒険と、なんともチャーミングなカットで終わります。ぜひ楽しみに映画館にお出かけください。

人生のお手本はもしかしたら過去にある。そしてまだまだ夢や目標をもって生きることで、周囲も自分自身も楽しく元気にすることができる。終活に対する私の持論がそのまま映像になったような、彼のその先の人生がより豊かになるであろうと想像させる映像で締めくくられました。

今回ご紹介した映画『 ぶあいそうな手紙 』

7月18日(土)よりシネスイッチ銀座、7月31日(金)よりシネ・リーブル梅田ほか全国順次ロードショー

原題:Aos Olhos de Ernesto(Through Ernesto’s Eyes)

監督:アナ・ルイーザ・アゼヴェード

出演:ホルヘ・ボラーニ、ガブリエラ・ポエステル、ホルヘ・デリア、ジュリオ・アンドラーヂ

配給:ムヴィオラ

© CASA DE CINEMA DE PORTO ALEGRE 2019

この記事を書いた人

尾上正幸

(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)

葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。

著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)

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