遺品整理マーケット、花火葬、シニアタウン、町を走る低速のセニアカー、葬儀の会食、出棺とさまざまなシーンは終活要素に溢れていながら、ただ一つ違うのが「元気に跳ねて踊るチアリーディング」でした。
終い支度である終活を始めた主人公マーサ、持ち物を整理して自宅を引き払い、シニアタウンに引っ越してきました。ここに住む人たちはまさにセカンドライフを謳歌するかの如く、その様子は如何にも楽しそうに暮らしています。しかし、すでに癌に侵されていたマーサは、この町を終の棲家として選んだのです。なかなか楽しめるという気持ちになれなかったのでしょう。
年齢を経てからの挑戦がおもしろい
映画の冒頭では、そんなこの町になんとなくなじめないまま一人で静かに暮らそうとしているマーサがいました。
そこに現れたのがお節介な隣人シェリル。
厚かましくもある彼女を始めは遠ざけていたマーサでしたが、過去に教師であったことでの互いの共感や、彼女の奔放さにいつしか惹かれ、若かった頃の自分の夢、ハイスクール時代に何度もあこがれて挑戦したチアリーディングを思い出すのです。
こうした夢とか目標と言うと私たちは若いときに観るものだと思いがちです。映画は年齢を経てからの挑戦がおもしろいということを思い出させてくれるのです。
さて、チアリーディング・クラブを結成しようと、人数を集めようとした途端にシニアタウンの理事会からは歓迎をしない声が聞こえてきます。
でも、マーサにはすでに、そんな周囲の声も跳ね返すほどのエネルギーがありました。これが目標を持つことのエネルギーなんですね。
シニアタウンのクラブとしての認定を得るための必要人数8人を集めるのにはそう苦労はしませんでした。周りには、確実に楽しみたいという気持ちを抱えた人たちがいるということが勇気になります。
「証を残したい」そんな思いを感じさせる練習シーン
しかし、そうは言ってもそれなりのお年頃の女性ばかり。腕が上がらなかったり腰が痛かったり、夫に反対をされたり、息子にとめられたり、歳のせいにしたりと、気持ちについて行かない体に、いつの間にか挑戦をしない理由が身についてしまいます。
そんな雰囲気に負けじと、楽しさを語り合ったり、またくじけたり、お互いに励まし合ったりと、なんだかとても懐かしい気がしたもの、私たちが昔から馴染んでいた青春映画のパターンがそのままに展開されているからかもしれません。
さて、そんなマーサ達でしたが、何の行き違いかハイスクールの壮行会で演技を披露することになるのです。
まだまだ練習不足の8名。トラブルがあったり、演技は失敗だらけ。さらにその様子がインターネットにも拡散されたことで、8名はシニアタウンの笑われ者になってしまいました。
シニアタウンでのクラブ認定をはく奪されます。それでもその時の縁からチームにはハイスクールチアリーディングのエース、クロエをコーチとして迎えることができました。そんなクロエも8人の魅力的なおばあちゃんにひかれてゆくのです。
当初シニアタウンでの発表会を目標にしていたチームでしたが、クラブの認定を失い新たな目標に定めたのが町のコンクールでした。それぞれに何か証を残したいそんな思いを感じさせるような練習シーンは、「へたくそ」ながらに楽しげでもあり、そうやってマーサのチームが完成してゆくのです。
生きてきた証はやがて誰かの力になる
さて、自らの弔いの方法を考えていたマーサは、「花火葬」という、テレビから流れる新たな遺骨供養の形が気になり、そこから映画のクライマックスにつながります。
それだけで時の流れと一つの区切りが見えるのが、語りすぎずに素敵だなあと感じることができました。彼女もまた人生の最期を花火のように鮮やかに印象付けるのです。
ランチタイムと言って、シニアタウンで時折催されるお通夜に出かけるリシェルに付き合わされるところや、メンバーのチーム参加を快く思わない夫の突然の葬儀シーンなどは解りやすくまたコミカルに描かれており、終活あるあるとしても楽しめる映画だと思います。
映画の中ではお別れのシーンもあるのですが、別れだけをクローズアップするよりも、生きてきた証はやがて誰かの力になると信じることができる、そんなエネルギーに溢れているのが印象的でした。
元気になれる終活映画としておすすめいたします。
そしていい映画に出会うと、何だか得した気分になれます。
今回ご紹介した映画『チア・アップ!』
監督:ザラ・ヘイズ
出演:ダイアン・キートン、ジャッキー・ウィーヴァー、パム・グリア、セリア・ウェストン、リー・パールマン
全国公開中
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム
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この記事を書いた人
尾上正幸
(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)
葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。
著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)