三年の約束

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今は亡き妻へ

来世で妻と再会したのなら、

「あれからずーっと独り身で暮らしていたの」

必ず疑いの目を持って尋ねるでしょう。

妻は「家族の平穏無事を考えて、三年間は妻帯せず穏忍自重した生活を送るのよ」と後に残す私を心配して言った。

ご近所でもその様な事情が有って、後妻の女性と子供との折り合いが悪く、家族の絆が破綻し、絶縁状態になったと言った。

「一緒になる女性は幾らでもいるから、焦らないで、三年間は我慢してね」と諭された。

四十一歳で進行性子宮頸部癌を発症し、全摘手術を施され、十六年にも及ぶ闘病生活に力尽き、享年五十七歳で黄泉路へと旅立った。

何時か、必ずこの時が来ると覚悟はしていても、辛く哀しい別れとなった。

三回忌法要の準備でお寺を訪ね、住職と雑談をした。

「今はお独りですか」と尋ねるので、妻との約束の話をすると、住職曰く、

「残った者の悲哀が、逝く者にとっては至福で安心感なのですよ」

住職はそう言いながら、「奥様の御主人に対する深い愛情で一種の方便ですよ」と笑った。

「子供が独立し別所帯の場合は、残った親への生活には干渉せずドライですよ」と言った。

友人達が生活に不便だから後添いを貰えと写真を持ってきたが、三年の約束を守り固辞したので立ち消えとなった。

今ではダイヤモンドや宝石を探すことより難しくなっている。

私の人生此れで良かったのか、と自問自答する日がある。

時折そっと忍び寄る寂しさに挫けそうになり、己の弱さや脆さを痛感する。また男としての煩悩との葛藤もあり、心の狭間で揺れ動く。

住職の言葉は目から鱗であった。

死に赴く者の儚い想いか、それとも死に際して尚且つ、家族を守りたいという女心だったのか。

妻の胸中は誰にも分からない。

「長い間頑張ってくれたね」

来世で必ず感謝の言葉を伝えたい。三年の約束も守れたと。

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。

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