弥七ちゃんへ

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今は亡き友へ

あんたはずるいよな。俺より年下のくせして、俺より先に逝っちゃうなんてさ。

あんたは平成二十一年の暮れに五十六歳の若さで旅立ってしまった。

俺たちに何も言い残さないでさ。突然だったから、それもできなかったのかな。

俺には葬式の受付をすることしかできなかった。それにしてもあんたの人気はさすがだよな。手話関係で七十人も集まったんだもんな。

やっぱりあんたの人徳だよな。

俺はそう思う。いや、俺だけじゃない、みんなそう思うんじゃないかな。

あんたと俺が初めて会った日を覚えているかい。俺ははっきりと覚えている。

あんたの所属する手話サークルに用事があって、俺が行ったときだった。

そこであんたに声をかけたのだけど、あんたは漫画本に目をやったままで、俺に一瞥もなかった。俺は「なんて失礼な奴だろう」と思ったよ。

確か昭和六十年の夏だったよな。

次の年、俺たちは県サ連(福井県手話サークル連絡協議会)の役員仲間として再会した。

あんたは表に出て理論を言うタイプ。俺は裏に回ってあんたが言ったことを実行するタイプ。それでいつもあんたは会長、俺は総務という役回りだった。

誰も言ってくれないので自分で言うけど、俺たちは絶妙のコンビだったよな。

あんたは俺より年下で、手話でも後輩だったけど、実力は俺より上だったから、俺は一歩も二歩も引いて、あんたを立てたのが良かったのだと思う。

そんな関係が六年ほども続いた。

平成四年からは二人とも若手に役を譲って、それぞれのサークルに帰っていった。

それからは会うことも少なくなっていった。気がつけば五年も会わなかった。

それが平成二十年の夏、陶芸家でろう者のFくんの個展で偶然に会った。

お互いに照れて、あまり話が出来なかった。

Fくんも交えて手話だけで話したから、なんとも静かな会話だった。

それっきりだった。

一年後の突然の訃報。返す言葉もなかった。

待ってろよ。俺もすぐにそっちに行くからよ。

今度こそじっくりと話をしたいもんだ。

あれからもう五年がたつ。

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。

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