母の話を聞いてあげて

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今は亡き父へ

お父さん、会ったこともないあなたへの初めての手紙です。母のおなかの中で三ヵ月だった私を残し、出征されたお父さん。私は六十八歳になりました。

戦争というのはひどいもので、あなたは一九四四年三月、南洋の激戦地、ブーゲンビル島で戦死。あなたと母の温かい家庭を、幼い子どもたちからは大好きな父親を、奪い去っていきました。

四十キロにも満たない小さな体の母は、四人の子どもを育てるため、夜の明けないうちから慣れない畑仕事。夜は遅くまで縫い物をしていました。三度の食事も子どもたちが食べた後、いつも残り物を食べていました。白米のごはんは、お正月と子どもたちの遠足、運動会の日だけです。 学級費も払えず、いつも職員室に呼び出されていた私が中学二年の時、お父さんのいない家庭の貧しさやつらさを母にぶつけた事があります。「何で私にはお父さんが、いないの!?」「・・・」母は無言でした。やがて台所の隅に行き、背を丸めて声を押し殺して泣く母の姿に、胸が張り裂ける思いをしました。私は母の涙を見たのは、あの時が最初で最後です。

お父さん、母は、四年前の四月、あなたの元へ旅立ちました。九十四歳まで大病もせず、穏やかでとてもきれいな最期でした。優しい兄夫婦と共に、老後を過ごせたのは、母の人生で唯一幸せな日々だったことでしょう。

お父さん、母の話をいっぱい聞いてあげてください。わがままを言っても、ちょっとは許してあげてください。「つらい・・・」を決して口に出さなかった母を優しくねぎらってあげてください。

そして、いつの日か私がそちらへ行った時は、力いっぱい抱きしめて下さいね。

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。

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