おとうちゃーん

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今は亡き父へ

おとうちゃーん、自筆で『覚え書き帳』と書き遺したノートのこと覚えてる?単調な文体で誤字が多かったなあ。おとうちゃんの学歴がないことは知っていたよ。公務員の現場職で、野心もなかった。世才にも長けてなかった。経済力も乏しかった。そやけど、あのノートには頭が下がったわ。

・単線のことを「モノデール」と云います。 ・表の木のことを「外の樹」と云います。 ・ご清張とは、よく聞いてくれましたということです。 ・大菩薩峠は「ライボサツトウゲ」と読みます。 ・カズノコはニシンの子で作った「シナモノ」です。

おとうちゃん、「モノデール」と違う。「モノレール」やで。「外の樹」と違う。「街路樹」やで。「ご清張」と違う。「ご清聴」やで。「ライボサツ」と違う。「ダイボサツ」やで。「シナモノ」と違う。「食べ物」やで。

お母ちゃんに教えてもらって、算数も勉強してたんやなあ。

・つるかめ合わせて29匹あります。足かずはみんなで76本です。つるは何匹か。かめは何匹か。29×4=116、116 76=40、4 2=2、40÷2=20、 29 20=9、答はつるは 20匹、かめは9匹です。ここ読んだ時、涙が止まれへんかったわ。

実はな、おとうちゃんの一周忌に追悼エッセイ集を出版したんやで。『覚え書き帳』をベースに、私が泣きながら書いてん。脚本家の山田太一氏に送ったらな、はがきで返事をくれはったんや。 「学歴社会への警鐘です。お父さんのような迫力のある父親は、昨今、少なくなりました」 胸がしーんとしたわ。

おとうちゃん、毎年、おとうちゃんの命日にはお姉ちゃんと二人、その本を読みながら思い出話をしてるんやで。本の題名やけどなあ、びっくりしたらあかんで。『愛さずにはいられない』、いうねん。本の帯に書いたサブタイトルはお姉ちゃんが考えてくれてん。『お父さん…あなたの娘でよかった…』。若草色の本の表紙見たら、どんな立派なおとうさんか思うやろなあ。

不思議やねん、おとうちゃん。わたしら、おとうちゃんのこと、ちっとも恥ずかしくないねん。誇らしいねん。

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。

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