今は亡き母へ
母さん、楽しみに待っていて下さい。
六才で母さんの死に会い、メソメソ泣いてばかりいた私、アコちゃんも今年は七十才。完全にお婆ちゃんの仲間入りとなってしまいました。そちらへ行くのもそう遠くはないと思います。
若くして亡くなった母さんは、テレビ、洗濯機、冷蔵庫を一度も見る事も、さわる事もなく、そちらへ旅立ってしまったので、今の私の生活を目にしたらどんなに驚いて、腰を抜かしてしまうのではないかと、想像しただけでもおかしくなってしまいます。
そんな母さんに、これらの製品を一つ一つ得意になって、説明してあげるのが私はとても楽しみです。
今、私は、難病の夫の介護歴、十二年目。
自称、ベテランヘルパーさんをやっております。
夫は時々、この大切な優しい奥様を、「あんた誰れ?」なんて、失礼な質問をしてきますが、私は平気。くよくよしません。
何故なら、例え、夫が私を見失なっても、私自身が、大切な夫を忘れることなどなく、しっかりと支えてあげることが出来るからです。
こんな私の性格を生前父さんがよく「母さん似だ」と言っておりました。父さんもそちらへ行かれて、相当の年数が過ってしまいました。
仲良くしていらっしゃることでしょう。私は、今、一つだけ心配なことがあります。
それは、母さんにお会い出来た日に、母さんが「アコちゃん!」と呼んでくれていた六才の私が(きっと可愛かったんだろうなあ)白髪で、しわだらけの顔の老婆に化してしまった、今の私を見て、気がついてはくれないのではないか?ということです。
そんな心配を解消するため、今、私は少しでも時間がとれると、自転車で片道二十分の母さんが眠っている墓地へ母さんの名前(菊枝)の一字である菊の花を携えて、顔を見せに行っております。
そこで、一人でおしゃべりをしている私。
「母さん、心配しないで、私は、大丈夫だから元気だよ!」
そんな帰り道、母さんの声が追いかけてくることがあるのです。
「そんな、強がりばかり言ってなくていいんだよ。泣きたい時は泣きな!こちらへ来るのは、そんなに急がないでね。ちゃーんと待っているから」
母さん、母さん、母さん、
もう少し、お待ちください。
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より
「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。