市民が作った三鷹市で暮らす高齢者のための「お役立ちハンドブック」

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高齢者をとりまく社会状況は年々深刻になってきています。ひとり暮らしの高齢者は増加傾向にあり、65歳以上でひとり暮らしをする高齢者の単独世帯は26.4%と、4世帯に1世帯が「独居高齢者」と言われるようになりました。また、8割以上の高齢者がひとりで最期を迎えることに不安をいだきつつも、まだ準備をしていないと答えています。(2019年 鎌倉新書【第1回】おひとりさまの「ソロ終活」に関する実態調査より)

そのような高齢者の終活に対する不安を取り除くため、東京都三鷹市の市民活動団体が、三鷹市内の高齢者にとって本当に必要な情報をまとめた『三鷹の高齢者お役立ちハンドブック(改訂版)』を発行しました。60ページあまりの手のひらサイズの小冊子には、介護保険や医療保険などに関する情報や三鷹市内の病院、高齢者施設、在宅医療機関などの施設に関する情報などがまとめられています。今回、ハンドブックを作成した「みたか・みんなの広場運営協議会」の成清一夫さんと「NPO法人HumanLoop・人の輪」代表理事・竹内碩子さんに、ハンドブックに込めた思いやその活用の仕方などについてお伺いしました。

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「みたか・みんなの広場運営協議会」とは

――ハンドブックをお作りになった「みたか・みんなの広場運営事務局」や「NPO法人HumanLoop・人の輪」とはどのような団体なのでしょうか。

成清さん(以下、成清) 「みたか・みんなの広場運営協議会」というのは三鷹市で高齢社会をテーマにさまざまな活動に取り組む団体が連携するネットワークです。2011年に実施された「新しい公共のモデル事業」をきっかけに、それまで個々で活動していた6つの市民活動団体が集まり、2012年から活動をスタートしました。

――新しい公共のモデル事業とはどのような事業だったのでしょう。

成清 市民による新しい公共事業の推進を目的とした国の事業です。全国で他の地域のモデルとするための事業の募集がありました。

もともと私は「日本シニアジョブクラブ」というシニア就業のためのNPOで活動をしていましたが、活動拠点がありませんでした。そこで、同じ悩みを持つ団体と共同して活動拠点を作りたいと考えて、「新しい公共モデル事業」という助成を受けようということになり、モデル事業の条件である5グループ以上での合同事業として、高齢者問題を中心に活動していた各グループが集まることになったのです。集まったグループのひとつには、竹内が理事長を務める「NPO法人HumanLoop・人の輪」も含まれていました。

竹内さん(以下、竹内) 「NPO法人HumanLoop・人の輪」を通して高齢者問題に関わる中で、三鷹市には同じ問題に関わっている団体がいくつもあるのに、個々の活動で終わってしまっていることにもったいなさを感じていました。

同じような問題意識をもっているグループが協力し合えば、もっと大きな力になって色々なことができるはずです。点であるひとつのグループから、つながる線で2つ、3つ、4つとつながっていく。最終的には面のようなつながりにしていかなければ、市民活動は小さいままで終わってしまい、発展性がないと考えました。

私のこのような考えに成清が賛同してくれたうえ、タイミングよく助成金の話が舞い込んできたため、助成をとって“公共カラーのある市民活動”を一緒にやっていこうという話になりました。

――助成がきっかけとなって、三鷹市で個別に活動していたいくつもの市民活動団体が協力し合うことになったのですね。

成清 そうです。とはいえ、個々に活動をしていたグループが一緒に活動するからには、共通の目的が必要になります。そこで、当初は「居場所づくり」をテーマに、コミュニティ・カフェを運営する活動を共同でやることにしました。

――助成金はどのように使ったのでしょうか?

成清 コミュニティ・カフェの場所代や人件費を含む運営費として使いました。あの助成金は、家賃や人件費も対象になったので、助かりました。次の年からは別の団体からの助成金や、「みたか・みんなの広場」を運営する各団体の負担によって活動を続けてきました。

三鷹市民のニーズを知るためにアンケート調査を実施

――ハンドブックを作成した経緯について教えてください。

竹内 10年前、「NPO法人HumanLoop・人の輪」で三鷹市に住む高齢者に暮らしと住まいに関するアンケートをとり、その集計結果をもとに『三鷹の高齢者お役立ちハンドブック』を作りました。

以来、「高齢者ハンドブックはまだありますか」という問い合わせが度々あったことから、創立10周を迎える「みたか・みんなの広場」の記念事業として、新しい情報を入れた『三鷹の高齢者お役立ちハンドブック』の改訂版を作ろうということになりました。

成清 前回のハンドブックと同様、三鷹市内に住む高齢者にアンケートをとり、その集計結果をもとにして情報を取捨選択していきました。アンケート作成については東京ホームタウンプロジェクトチームの協力を得て、アンケート内容の検討や集計などを手助けしていただきながら行いました。

――作成の前の段階で、とても入念な準備をされていたのですね。

竹内 なぜアンケートをとったのかというと、私たち自身も高齢者とはいえ、市民活動を行っていない方々の感覚との間に、ずれがあると思ったからです。私たちが必要だと思う情報を発信するのではなく、あくまで市民のニーズのあるところに発信をしていかなければ意味がないのではないかと思い、このようなかたちをとりました。

成清 アンケートは3,000部用意し、知り合いや高齢者と一緒に活動している団体に頼んで回収しました。結果として、400部以上を回収することができました。しかも、そのうちの250人は名前と住所まで書いて送り返してくださいました。

――反響も良かったのですね。

竹内 高齢化問題に危機感をもつ人が増えたからではないでしょうか。私自身、10年前の同世代の高齢者とは、あきらかに危機感、意識が違ってきていると感じています。

――ハンドブックの印刷部数と配布方法について教えてください。

成清 8,000部印刷して、役所や市議会、地域包括支援センター、社会福祉協議会などに送りました。そのほか、アンケートにお答えいただいた方やお世話になっている方のところに郵送したり、関係している団体やグループやイベントで配布したら、一か月もたたない間に、残りが500部となってしまいました。

――この冊子を作るのに、費用はどのくらいかかったのでしょう。

成清 印刷代を含めて約100万円かかりました。そのうちの80万円は、複数の団体から助成金をいただきました。

――足りない分は持ち出しですか?

竹内 ある程度持ち出しを覚悟してやらなきゃ、何もできません。でも、できることなら持ち出した分を回収したいです。貧乏していますよ(笑)。

終活にかかるお金についての知識をもってほしい

――ハンドブックを作成するうえで、どんな点にこだわりましたか?

成清 一番は「見やすさ」と「持ち運びやすさ」です。高齢者が対象なので文字を小さくしすぎないことと、常に携帯できるサイズであることにこだわりました。

竹内 項目ごとの情報量を均一にせず、なかなか手に入りにくい情報にページ数を割きました。たとえば、介護保険についての情報は地域包括支援センターとケアマネジャーのことしか書いていません。なぜなら、介護保険の情報は役所に行けばいくらでも手に入れることができるからです。一方、成年後見制度については情報が少ないため、ビッシリと書いています。

成清 情報という点では、「高齢者見守りキーホルダー」の情報をトップに掲載することにもこだわりました。

高齢者見守りキーホルダーというのは、東京都大田区の高齢者見守りねっとワーク「みまーも」が生み出した高齢者のためのキーホルダーです。管轄の地域包括支援センターに住所や氏名、緊急連絡先など、持ち主の個人情報を事前に登録しておくことで、キーホルダーを携帯していれば、万が一外出先で緊急搬送された際などに、搬送先の病院や保護をした警察などからの問い合わせに対し、地域包括支援センターから情報提供を行うことができます。

大田区で始まった高齢者見守りキーホルダーを三鷹市に導入したのは僕たちだという自負もあります。

――高齢者の施設にかかる費用など、具体的な金額もきちんと書かれています。施設によってはあまり明確に出したがらないこともあったのではないでしょうか。

成清 多くの方にとって一番関心のあることはお金のことでしょう。だからこそオブラートに包まず、書けるところは全部書きました。

竹内 「これだけの費用がかかる」という覚悟を高齢者自身に持っていただきたいと考えました。高齢者であっても、元気だと終活の準備をしていない方が本当に多い。ですが、社会の状況が厳しくなっている以上、ただ漫然と生きていられるわけじゃなくなってきているということを、ハンドブックを通して認識していただければと思っています。

高齢者のためのハンドブックを他の地域にも広めたい

――今回三鷹市で作成されたハンドブックの全国版を作ることは可能でしょうか?

成清 ぜひ全国版を作っていただきたいところですが、介護保険などの制度は地域によって全部違うため、なかなか難しいと思います。

竹内 このような地域の情報を取り入れたハンドブックを作る活動が、他の地域にも広がっていけば、それができれば一番だと思っています。特に地方になると、高齢者にとって必要な情報がまだ行き届いていない地域が多いと感じます。

ただ行政にすべてを任せきりではなかなかうまく、前には進まないでしょう。理想としては、行政では市民を集め、集まった市民自らの手でハンドブックを作成していただきたい。「みたか・みんなの広場」の活動が、ハンドブック作成におけるひとつのモデルケースになれば幸いです。

成清 このようなハンドブックの作成は、作る側にとってもメリットの大きい活動です。私自身、たくさんの人と一緒にものを作ること自体が楽しかったし、多くの新しい知識にふれることができました。ぜひ多くの人にこの楽しさを味わってもらいたいと思っています。

――ありがとうございました。

(文 八木麻里恵)

みたか・みんなの広場とは

地域社会の人々とNPO等の市民活動団体が共同して活動する助け合いの場。ちょっと疲れたときの休憩の場として、おしゃべりをしたい時の歓談の場として、どなたでもご利用できます。


住所:〒181-0033 東京都三鷹市下連雀4-5-19

みたか・みんなの広場運営協議会 参加団体

NPO法人 HumanLoop・人の輪
NPO法人日本シニアジョブクラブ
NPO法人グレースケア機構
みたか・認知症家族支援の会
三鷹市医療と福祉をすすめる会

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