母お手製の、ウルトラマンの座布団カバー

Adsense(SYASOH_PJ-195)

今は亡き母へ

母の遺品を整理していたときのことだ。タンスの引き出しの中に、一枚の色あせた白布を見つけた。

戦後の貧困を生き抜いた同年代の者が皆そうであるように、母の遺品は捨てきれなかったものたちであふれていた。バーゲンでまとめ買いした靴下や、百貨店かどこかでもらった粗品のハンカチの間から、その色あせた白布はのぞいていた。

私は何気なくその布を引き出して、思わず目を疑った。それは私が小学校の時に使っていた、母お手製の座布団カバーだったのだ。

当時の私は引っ込み思案で、人と話すことが苦手だった。友達も少なく、成績も今ひとつで、母にとっては心配の種だったのだろう。ご存じの通り、生徒用の椅子は板張りで、お尻が痛かろうといって座布団を作ってくれたのだが、そのカバーに当時人気があったウルトラマンの絵を描いてくれた。

今思えば目立たぬ私を気遣って、周りの男の子たちとの話題作りにと描いてくれたのだろう。母のもくろみは功を奏したかどうか、今となっては覚えてもいないが、この上なくうれしかったことだけは記憶の中にある。今から四十年も前のことである。母の記憶の中では、生まれたての私も、小学生の私も、結婚して子どもをもうけた私も、すべてが私なのである。

私でさえ忘れ去った過去の私もすべて含めて、愛しい子どもであったのだ。教室で恥ずかしそうに座布団カバーを指さして話す幼い私。慈しむように見つめる母の姿。私のまぶたの裏で陽炎のように。

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」は、父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。

葬儀・お葬式を地域から探す