酒に溺れ、孤独死した父。なぜあなたは生涯、財布に私の写真を入れていたのですか?

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今は亡き、父へ

秘められた絆

お母さんはよくあなたのことを「お酒さえ飲まなければ良い人だった」と言っていましたが、私は「お酒を飲んでも良い人」の方が好きです。

お酒で家族を傷つけ、家庭を地獄にし、結局は全てを失って、孤独の中亡くなったあなた。お母さんと離婚した後、あなたが頼るのは私ばかりで、連絡がくればお金の無心、夜帰宅するとうちの玄関前に誰かが寝ていて、見ると泥酔したあなたが「飲み代を払えなくなったから払いに来てくれ」などと言う始末。私はあなたへの憎しみと嫌悪で、何度「縁を切る!」と吐き捨てたか。

ある日警察から連絡があり、指定されたアパートに行くと、室内であなたが亡くなっていました。警察に「娘さん?」と驚かれました。

なんでも室内には沢山の写真たてがあって、そこには弟の写真ばかりが飾ってあるとのことでした。私の写真は一枚もなかったそうです。

大嫌いな父、縁を切りたいと思い続けていた父ですが、私はそれでも一方的にあなたに愛されてると思い込んでいて、私だけ写真を飾ってもらえなかったことに、想像を絶する衝撃を受けていました。

あなたのお葬式では、何故か哀しく、涙が止まらず、重いから置いておきなさいと親族に言われた骨壷を、抱き締めたまま手放すことが出来ませんでした。

あなたが亡くなってせいせいすると思っていたのに、意外でした。納骨までの期間、私は毎日あなたのお骨を抱き締め、あなたの好きな音楽を流していたんですよ。聴こえていましたか?

遺品整理をしているとき、思いがけないことがありました。あなたのお財布から私の写真が出てきたのです。弟の写真はなく、私の写真だけが。感激というより、ほっとしている自分がいました。

ふと、あなたは私に尊敬される父親になりたかったんじゃないかと思えてきました。けれども弱いあなたは、お酒に負けてしまった。

私に軽蔑され、嫌われ続けた。娘への愛を真っ直ぐ示すことに躊躇して、部屋に写真も飾れずに、こっそりお財布に写真を忍ばせていたのではないですか。

ねえ、お父さん。私もまた、あなたに愛されたかったのだと気がつきましたよ。

時には罵詈雑言を浴びせ合い、最後まで分かり合えなかった父と娘でしたが、あなたは私を愛してくれていましたよね。写真たてに私の写真はなくても、あのお財布の中身を信じていいのですよね。

私は今、あなたの写真を写真たてに入れています。

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」より

「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」とは 父母、祖父母、先生、友人、近所の人など。“あの人”とかつて一緒にいた時に言えなかったこと、想い出や、“あの人”が亡くなった後に伝えたくなったこと、感謝の気持ちなどを綴ったお手紙です。

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