【終活映画】大切な家族が困らないようにという大きな思いの前に、もっと気づいてほしいこと。『家族を想うとき』

映画『家族を想うとき』

家族が困らないようにと考えられることは幸せなことです。今ある苦労を乗り越えようとするエネルギーはどこから湧いてくるのか?終活の原動力はこんな『家族を想うとき』にあるのかもしれません。

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物語

何をやってもうまく行かないと、さまざまな職を経て配送業に行きついた父親。「いつかきっと」と、一日14時間の仕事をこなしてゆくが、「家族のために」と思いながら、それは知らないうちに家族との関係を二の次にしてしまっている、そんな男リッキー・ターナー。そしてターナー家で、同じように介護士として働き詰めの妻。この妻の献身的な介護ぶりは感動すらしますが、同時に彼女もまた家族の時間が持てないままでいました。いつの間にか家を顧みなくなった父に反発するようになった高校生の長男と小学生の長女の日常を切り取った物語です。

おそらく家族は経済的にも最も大変な時期であり、共稼ぎと子育てに翻弄されるのですが、その都度問題を起こす長男の行動は両親の邪魔をしているようでもあり、同時に父親ときちんと向き合いたいという一念なのかもしれません。一方で幼い長女は両親の苦労を見ながら、自分自身が家族を支えようという思いが伝わってきます。父と仕事の時間を共にしたり、母がするように寝坊をする兄を起こしたりと、その姿がいじらしくもあります。

映画『家族を想うとき』

振り返った時に笑い話として語れるか?苦しい思い出として心を閉ざしてしまうのか?

苦労話のようでもあり、一方ではそれぞれが自分のできるかたちで家族を思うことに、一生懸命だったのでしょう。人生を振り返った時にその時の経験を笑い話として語ることができるのか、それとも、ただ苦しい思い出として心を閉ざしてしまうのかは、その時に周囲とどんな会話をしてどんな思いを共有したかにかかっているのではないでしょうか?

私のセミナーでは人生の幸福度をグラフにした。「幸せの自分史グラフ」というワークをすることがあります。一見自分の幸せを図るように振り返るものと考えられるかもしれませんが、たくさんの幸せを振り返り、また辛さや悲しさを思い出しながらそれを乗り越えてきた今の自分を感じることで、人生100年と言われるこれからを創造して行こうというものなのです。辛いことから逃げるのではなくて、向き合うことの大切さもそこから感じることができるとお伝えします。

約2時間のストーリーですが、これをリアルな生活に置き換えれば、ターナー家のそれぞれの物語はこの先も続くことでしょう。そんな映画の中でも人生逆転劇のようなエンディングなどめったに起こるわけではありません。それだけに家族が向き合う力というのをとても感じる映画になっています。

よくよく考えると日本の家族ドラマの中でもどこかで見たような苦悩がたくさんちりばめられており、私が見てもとても入り込みやすく感じた映画でした。

映画『家族を想うとき』

本気で向き合うことで、家族は成長してゆく

そんな家族の抱える問題は、あたかも長男の素行不良にあったようにとらえていた父親のリッキーでしたが、母親は息子と向き合うことを何度も何度も父親に求めます。自分自身が一生懸命で体力も経済力にも余裕がなければ、問題は息子にあると簡単に、そんな風に考えてしまうのかもしれません。

母親の横に常に寄り添う幼い娘も同様に、この家庭の一番の問題は父親の仕事なのだという思いから、良かれと思うことが、やがては父親と長男との大きなすれ違いの原因となるのですが、そんな心のすれ違いでも、父親が暴漢に襲われたところから大きく変化をして一つになろうと変化をしてゆくのです。

娘の正直な家族への思いを聞き、重体となった父親を心配し家に戻る長男の言葉の変化、すべてを繋ぐように抱きしめる母親と、それぞれの思いを感じた父は、また仕事に出かけようとします。それぞれが大切な『家族を想うとき』に、父もまたその家族を思い、動き出すのですが、それまでとは少しだけ異なる思いが生まれたのに違いありません。こうしてそれぞれに家族を思いながら、抱きしめることができるだけではなく、本気で向き合うことができることで、家族が成長してゆくのでしょう。

タイトルの『家族を想うとき』とは、実は常にそんな思いが生きるための原動力の一部になっているのでしょうが、なかなかそこに気づくに至らなのも事実。大切な家族が困らないようにという大きな思いの前に、もっとお互いに気づいてほしいというのは常にあるのでしょう。エンディングノートを書こうとした世代も、書いてほしいと思った方も、この家族の日々の一コマをぜひご覧になってみてください。

映画『家族を想うとき』

今回ご紹介した映画 『家族を想うとき』

12/13(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督:ケン・ローチ

脚本:ポール・ラヴァティ

出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター

2019年/イギリス・フランス・ベルギー/英語/100分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/原題:Sorry We Missed You/日本語字幕:石田泰子

提供:バップ、ロングライド  配給:ロングライド

この記事を書いた人

尾上正幸

(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)

葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。

著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)

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