【終活映画】終活目線で見るラブストーリー。『マチネの終わりに』で、過去と現在、そして未来を想像してみる

マチネの終わりに

未来は常に過去を変えているのかもしれない・・・

過去が未来を作っているようで、実は未来も常に過去を変えているのかもしれない。主人公、蒔野のこの言葉が常に映画のすべてに関わっているような鑑賞時間を過ごしました。これから未来を考えるという前向きな生き方もあれば、未来から過去を振り返りそれをエネルギーにするような生き方、考え方、そして可能性を求めることもできるのだという。

Adsense(SYASOH_PJ-195)

物語

福山雅治さん演じるギタリスト蒔野聡史は、そのステージごとに消耗するほどの演奏を続けてきたようですが、若いときの情熱を加齢とともに失いかけてきた頃に出会ってしまったのが、石田ゆり子さん演じるニューヨークで働くジャーナリスト、小峰洋子でした。 

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えているんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか」というのが、蒔野が出合って間もない洋子に伝えた言葉でした。

『マチネの終わりに』を終活目線でとらえると?

蒔野が洋子に語るこの長いセリフの中で、「未来は常に過去を変えている」という言葉に共感をしてしまうのです。同時にこの映画を観る私の頭の中は一気に過去と未来の関係に支配されてしまいます。まさにその状況で映画は進んでまいります。

実はここが終活ポイントで、終活目線で過去を振り返った時に「大事なこと」としてお伝えしていることと似ているのです。

あの時は「あんなにつらかった」ことが、思い出してみると、今は、あの時ほどにはつらく感じていない自分がいます。同様にあんなに幸福にあふれていた瞬間ですら、現在では普通に語れる自分がいます。時の流れを経た未来の私は、もっとタフになっていると同時に、もっと幸せを求め期待を感じていることに気が付くのです。

いくつになっても、まだまだ生きる目標や夢は尽きないということこそが、終活で自分史を活用して振り返る大きなメリットなのです。

「出会ってしまった事実は、無かったことにできない」という蒔野の言葉から、急展開で人生は翻弄されます。

ああ、あの時あんなことが無ければとか、あんなふうにしていればというようなことは誰の人生でもたくさんありますが、その先の幸せまであの過去が続いているとしたら、つらく苦い経験も必要だった思い出に変わってしまうのかもしれません。こうしたラブストーリーには常に過去に翻弄されている未来があり、過去に背を押されるように生きる未来もあるのを改めて感じました。

もうひとつ、無理やりに壊してしまったあるべき姿というのは、歴史が揺り戻しをして本来あるべき姿になるというのは、タイムトラベルをテーマに作られた映画作品でもよく聞く言葉ですが、なるほどそうなのかもしれないと頷いてしまうような展開が映画の後半に続きます。

ドラマは二人をあらゆるものによって翻弄します。蒔野は洋子の存在に翻弄され、洋子もまた蒔野の言葉に翻弄されながら、一気にラブストーリーは完成するのですが、そこからハッピーエンドに終わらないまま、時の揺り戻しを経て再会したときまで、それぞれのそれまでの歴史や思いをどのように整理したのでしょうか?

石田ゆり子さんのその表情の変化により、その胸の内を想像してしまうには十分すぎるぐらい、一気に見られるほどスクリーンに引き込まれました。全てを通して上質の映画を観た満足感でいっぱいです。この辺はぜひ劇場で鑑賞してください。ここで語るにはもったいなさすぎます。

幸せな気分で終われる映画

『マチネの終わりに』というタイトルもいいですね。

ソワレ(夜公演)ではなくてマチネ(昼公演)。そんな知識もない私ですから調べてみました。こうやって新しい映画を見て、興味がわいてゆくことが重要。この映画のおかげでまた一つ言葉を覚えるわけです。

復活の昼公演終盤で蒔野はアンコールの声に応えながら、このコンサートの後にセントラルパークを歩きながらファンに対する思いをかみしめるように歩く予定だと話した直後に、洋子の姿を客席に見つけるのです。お互いかわす言葉も一切なく、牧野はステージから客席の彼女へのメッセージとして、蒔野は二人が出会った頃に話をした蒔野による映画音楽作品『幸福の硬貨』を最後の曲を奏でるのです。

マチネの終わりを経て、約束をするでもなくセントラルパークを歩くそれぞれが、もしも出会わなければそれも運命とでも思うのでしょうか。そんな洋子と、彼女を必死で探し求める蒔野の姿、どうやら過去は現在にまで時間を進めてそのシーンに合わせたかのようでした。

互いを見つけた二人の表情に癒され、その先はそれぞれの想像をしながら、幸せな気分で終われる映画でした。

これまで福山雅治さんというと、「ガリレオ」シリーズが私の中の彼の印象でした。そして「逃げ恥じ」の石田ゆり子さん。今回は良い意味で、役者さんたちに対して自分が持っていたイメージとは異なる雰囲気を味わえ、新鮮な気持ちになれました。そんな意外性も終活映画としてはなかなか良いチョイスだと思います。 

今回ご紹介した映画 『マチネの終わりに』

「全国東宝系にて公開中」

出演:福山雅治 石田ゆり子
伊勢谷友介 桜井ユキ 木南晴夏 風吹ジュン
板谷由夏 古谷一行

監督:西谷弘 
原作:平野啓一郎「マチネの終わりに」 
脚本:井上由美子
音楽:菅野祐悟 
クラシックギター監修:福田進一
製作:フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク
制作プロダクション:角川大映スタジオ
配給:東宝 matinee-movie.jp
©2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

この記事を書いた人

尾上正幸

(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)

葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。

著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)

葬儀・お葬式を地域から探す