【終活映画】大切なものを失った時、遺された人が感じる痛み。『駅までの道をおしえて』

少女と子犬の関係を通して、人生の中で大切なものを失った時人はどうなるのか、やがてその痛みから回復するまでの思いと時間のつなぎ方、人それぞれの慈しみ方を感じる映画『駅までの道をおしえて』。

逝く人が集い、あの世と言われる場所へ旅立つための駅までの道をおしえてください、その駅は、大切な人が立つ向こう側のホームと、どうしてもその向こう側に行くことができないこちら側のホームに立ち、涙する見送る人との最後の場所。逝く人はあちら側のホームから、涙を流す見送る人に、微笑みを返して手を振る。死別の痛みから切り替えることができないまま迷うようにしている人に、やがて得る安心を与えるような慈愛の笑みを残す場所。

冒頭から映画のすべてが主人公の少女の表情や躍動感に引き込まれます。それと同時に彼女の大切な存在でもあった子犬のルーの名演技がなんとも言えなく引き込まれてしまうのです。

Adsense(SYASOH_PJ-195)

死別の現実が受け入れられない二人の出会い

物語の始まりは二人の出会いからでした。いじめから塞ぎ込んだ経験のある少女は、ペットショップのかたわらで、見切り品を処分するように扱われる子犬に共感し、子犬を飼うことに……。

真摯に向き合うところから私にとっては全体に流れる雰囲気の美しさのようなものを感じてしまいました。同時に映画と主人公に対する、観る側からの期待する思いが生まれます。

少女は両親やおじさんの理解を得て子犬のルーを飼い共に過ごす時間を得るのですが、毎日毎日の二人で過ごすその時間が濃密なだけに、自分が留守の時に逝ってしまった子犬との死別の現実が受け入れられないままでいました。

そんなある日、亡くなった子犬が引き合わせたかのように出会った喫茶店の老マスターもまた、人生の終焉を迎えようとしながら、若き日に失った息子の死を受け入れないままに、何かを待つように喫茶店を開けていました。

少女はマスターの息子が亡くなっていること。そしてそのことを受け入れられないままにマスターがいることを理解しながらも、このマスターと過ごしている時間が、いなくなった子犬のルーとの時間を忘れることができる時間でもあり、ルーと再び出会えるような期待を感じていたようです。

二人は大切なものを失ったもの同士、そしてそれを受け入れることのできないままにいるもの同士だったからでしょう。少女は老マスターのことをお友達といえるほどに仲良くなったのです。

二人で遠くに出かけないかという少女の提案で小さな海への旅を経験します。そして二人だけの世界で稀有な時間を過ごすのです。

「別れの駅でまた会おう」

子犬が亡くなった時に立ち会えないままに、その死を受け入れることができなかった少女は、同じようにまた老人と別れることになります。少女が駆け付けた病院のベッドで老人の最後に残した言葉は、老人が息子とかわした言葉、「別れの駅でまた会おう」という約束でした。

子犬が贈ってくれた機会だったのか、死期が迫った老人に向けた息子の愛なのか、こうした経験をしながら、少女は大切なものとの別れを受け入れてゆくことになるのでしょう。

少女には子犬、老マスターには息子が対象になって、誰もが経験する大切なものを失った時に遺された人が感じる痛みについて、これを知ることになる映画であると同時に、何としても人は再生するのだという思いが見えてきます。

何度も何度も頑張っても、やがてまた次に大切なものを失うことがあるのです。それでも人は成長という糧を得て、また生きてゆくのだということ。物語の押し付けではなく、こうした別れの痛みを感じた経験で苦しまれた方には、じんわりと響いてくるものがあるに違いありません。

後の日常シーンでは、死別を受け入れられないままだったルーに対する思いは、赤い電車が好きな子犬のルーとして思い出に昇華しているようでもありました。

映画全編で主人公の少女を演じた子役の新津ちせさんと子犬のルーの演技には驚くほど引き込まれます。生き生きとした姿に微笑ましくもあり、また魅了される映画でもあり、誰にでも起こり得ることのひとつとして、多くの方に見ていただきたい心に響く映画でした。

今回ご紹介した映画 『駅までの道をおしえて』

全国公開中

出演: 新津ちせ 有村架純 / 坂井真紀 滝藤賢一 羽田美智子 マキタスポーツ/余 貴美子 柄本明 / 市毛良枝 塩見三省 / 笈田ヨシ 

原作:伊集院静「駅までの道をおしえて」(講談社文庫) 

脚色・監督:橋本直樹

主題歌:「ここ」コトリンゴ

企画・製作:GUM、ウィルコ     配給・宣伝:キュー・テック

シネマスコープ/ 5.1ch/DCP/125分

©2019 映画「駅までの道をおしえて」production committee

この記事を書いた人

尾上正幸

(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)

葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。

著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)

葬儀・お葬式を地域から探す