【終活映画】スクリーンに映る自然の美しさとゆったりと流れる時間『みとりし』

今回の映画は「みとりし」です。私の中では看取りと介護士という2つの役割と認識しておりました。介護だけではなく看取りを遠ざけない存在の必要性、そんな興味をもった上での、待ち遠しい封切りでした。

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やがては亡くなる命を前提に本人の思いと家族の不安に向き合う

話はいきなりタイトルから飛びますが、少しだけお許しください。

昨年公開の「アベンジャーズエンドゲーム」という映画、私はこの映画こそトニー・スタークの終活要素にあふれた映画だと考えているのですが、彼が絶命するときに駆けつけた妻ポッツが、うつろな目をしたトニーに向けて、名前を呼び繰り返し「大丈夫だよ」と声をかけます。

逝く人の不安を取り去ることのように感じていました。看取るとは単に悲しく遺されたものの世界になるのではなく、逝く人の不安も考える。そんな役割も持っているのかもしれません。

若いドクター髙﨑が、着任早々に「過疎」と言ってしまうほどの地方の町でのこと、ひとつの病院と連携するように看取り士の存在がありました。ドラマは「看取りステーションあかね雲」のスタッフの活躍が描かれています。

たまたま監督とキャストのステージ挨拶がある時間に鑑賞することができたのですが、ステージ挨拶に立つ皆さんがあまりにもこのドラマを大切にしていることが伝わるのです。当然ながらなかなかネタバレというわけにはいかないので内容には配慮をしております。

命には限りがあり、生きている誰もがやがては亡くなることは当たり前のことなのですが、どうしても遠ざけて考えないようにしてしまいがちです。

そんな中で看取り士という存在は、依頼を受け、逝く前提での役割を受けるのです。老いは病ではなく、運動能力も体の機能も徐々に低下してゆくのですが、これに対して病と同じように治療という考え方はどうなのかと問えば、やがては亡くなる命であり、それを前提に本人の思いと家族の不安を助ける存在が医療に代わり求められるのだと考えればよいでしょう。

©2019「みとりし」製作委員会

物語

ドラマの中では新米看取り士の高村みのりの奮闘と所長である柴の活躍の様子が描かれているのですが、そんな彼らにも人生のドラマがあり、そのドラマがあってこそ助けることのできる存在になります。また看取りの経験の中から自分自身のドラマの穴のようなものが徐々にふさがれていくようです。

柴は過去に交通事故で失った娘に対する想いを、高村は幼いころに亡くした母に対する想いをそれぞれに引きづるようにしていたのです。そうやって自らの想いを殺しながら抱えながら、遺族に看取りを体感させます。寄り添いながらも支えられているようでもあります。

そう考えると人はひとりでは生きてはいけないということと同時に、死ぬ時に家族や看取り士から掛けられる言葉で、逝く人はどんなに安心できるのだろうと心から感じられる映画でした。

©2019「みとりし」製作委員会

自らの過去を振り返ってみると

葬儀担当者として遺族に寄り添い、いくつものお別れのお手伝いをしてきた私は、祖父を含め3人の家族との別れも経験しているのですが、看取るという経験をしていないことに気が付きました。

失うという経験からの悲しみや後悔はさぞかし私を強くしてくれたのだと思いつつも、臨終の際の経験であればまたどんな風に考えたのだろうという事を振り返ると、最も身近な父親の葬儀を経験した時には考えました。

後の20年以上にわたり私は父の死を引きずるのですが、もしもその時に病床の傍らにいたら、おそらくは考えるよりも先にありがとうという感謝の言葉しか出なかったかもしれません。もしかしたらそれが私自身の心の整理となったかもしれないと考えさせられました。

10年も前に映画おくりびとに感じたように、スクリーンに映し出される自然の美しさとゆったりと感じる時間は、死生観を考えるに十分な心の準備をさせてくれたのですね。

さて、一点だけこの物語に具体的に触れますがご勘弁ください。

過去を振り返る高村みのりの高校生の頃、彼女と書店の店員とのやり取りがあります。私はこの瞬間に涙があふれてしまいました。いろいろなところで私ならどうするだろう?どうなってしまうのだろう?と振り返るのです。皆さんはどうでしょうか?ご覧になられてぜひ感じてみてください

©2019「みとりし」製作委員会

最後にこの映画のロードショーで有楽町スバル座が閉館となるようです。たくさん通った場所ではないのですが、やはり有楽町は好きな映画の街でもあります。そんな機会になったこともひとつの思い出として頭のチェックボックスにレ点を入れておきます。

今回ご紹介した映画『みとりし』

公開:2019年9月13日~
監督・脚本:白羽弥仁
原案:柴田久美子
出演:榎木孝明、村上穂乃佳、川下大洋、河合美智子、つみきみほ、金山一彦、宇梶剛士、櫻井淳子

この記事を書いた人

尾上正幸

(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)

葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。

著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)

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