メモリアルコーナーとは、葬儀や法要の際に故人の写真や愛用品などを展示し、参列者が故人を偲ぶ思いを深める一助となるものです。最近ではメモリアルコーナーの設置に対応する葬儀社も増え、お見送りの形のひとつとして定着しつつあります。
そこで今回は、メモリアルコーナーのさまざまな形や、意味や効果をご紹介します。
写真を展示する(メモリアルフォト)
メモリアルコーナーにおいて主役となるのは、やはり写真です。
葬儀社によっては、写真のディスプレイを請け負ってくれたりするところもあります。
遺族や親族がディスプレイをする場合には、何枚か選んだ写真をボードなどに展示し、そのほかたくさんの写真を参列者が自由に見ることのできるようアルバムなどを広げて置くのもいいアイデアです。展示する写真は、人生における大切な場面や趣味を楽しんでいる写真、家族での楽しい思い出など、できるだけバラエティ豊かなものを選ぶとよいでしょう。
時間と気持ちに余裕があれば、写真の場面に短い解説を書いたり、故人の生涯を振り返る手作りの年表などを添えたりすると、より印象深いコーナーになります。
映像を作成する(メモリアルビデオ)
葬儀のためのメモリアルビデオを作成するには、古い写真をデータ加工したり、ふさわしい文章によるテロップやナレーションを付けたりなど、さまざまな技術はもちろん、特別な心配りも必要とされます。
また、葬儀に間に合わせるため、速やかにビデオを完成させなければならないので、無理をせず、できれば作業に慣れたプロの手を借りると安心でしょう。
最近では、葬儀社がメモリアルビデオの作成を請け負うことも増えてきました。葬儀社などの業者に委託した際に遺族がすることは、写真や音楽を選び、故人についてのインタビューに短時間答えることだけです。あとは専門の技術者が写真を加工し、音楽やナレーションなどを付けて映像にまとめあげます。
葬儀社のメモリアルビデオは、依頼から納品までが中一日といった短い期間でも間に合うように対応しているところがほとんどです。
利用する葬儀社がそのようなサービスを行っていない場合、もしくはあまりに法外な料金に感じられた場合などは、外部の映像制作業者に直接依頼をするという方法もあります。
しかし葬祭業と関わりのない業者の場合、葬儀にふさわしくない表現が入ってしまったり葬儀に間に合わなかったりする場合もありますので、納期や経験などについてよく確認をすることが重要です。
思い出をたどる写真を用意する
メモリアルビデオの作成に当たって遺族に任せられる一番大きな仕事が、写真を選ぶことです。
故人を偲びその生涯を振り返るための映像ですから、できれば生まれた直後から晩年まで、人生のさまざまなシーンの写真を用意できると良いでしょう。
専門の業者であれば色あせた写真もきれいに加工・修正してくれるサービスもありますし、また古いままの写真の方が当時の様子が伝わるということから、あえてそのまま使用したいということもあるようです。故人の人柄や喪主の好みに合わせて決めましょう。
枚数としては最低10枚、多くて30枚ほどを用意できれば、映像として形にしやすいようです。
どのような曲を使う?著作権の壁
メモリアルビデオのBGMに、故人の好きだった曲を使いたいと思われる方は多いでしょう。しかし、葬儀場で流す音楽や映像作品に使う音楽には必ず著作権の問題が関わってきますので、選曲に注意が必要です。
よく見られるのは、葬儀社が用意した数十曲の中から依頼者が使用曲を選ぶ方法です。この場合、業者自身がBGM専用に作ったオリジナル楽曲や、有名な楽曲をBGM用に新たにアレンジしたものを用いるため、著作権使用料が別途発生する心配はありません。
既に著作権が消滅しているクラシック音楽作品であれば良いのでは、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、作曲者の権利は消滅していても、市販されているCDなどに音源を求める場合はやはり使用料がかかります。
業者によってはJASRAC(日本音楽著作権協会)と利用許諾契約を結び、顧客の要望に幅広く応えられる体制を整えているところもありますので、どうしても使いたい楽曲がある場合はそういった業者を探したり、依頼する業者、あるいはJASRACにしっかり確認を取ったりしましょう。
作成するための費用
映像制作にかかる費用は業者によってさまざまですが、葬儀で流すことを想定した5~10分以内の映像ですと、相場は概ね20,000〜50,000円前後といったところのようです。
価格はオリジナルナレーションの有無や使用メディア(写真や動画)の量によっても変わることがあります。また、より長くボリュームのある映像を作成したい場合には、もちろんそれに応じた費用がかかります。
写真をスライドショー的に流すだけの形であっても、無料サービスとして基本料金に含まれている場合と、別途オプション料金が発生する場合があります。
またメモリアルビデオの作成や葬儀内での上映に当たって、内容と費用について葬儀社によく確認することは言うまでもなく、できるかぎり遺族・親族の理解を得て進められると良いでしょう。
できあがった映像は葬儀の時に一度流して終わりということはなく、DVDなどの形で遺族の手に残ります。そこに価値を感じるかどうかでも、費用に対する印象は変わってくることでしょう。
趣味や愛用の品物を展示する
写真の他には、故人の趣味の品などを飾ったディスプレイも多く見られます。
例えばお酒の好きな方でしたら、故人の好んだお酒や、愛用していた酒器などをテーブルセッティングのようにして展示するのもいいでしょう。読書家の方であれば愛読していた書籍、音楽が好きな方であれば愛聴していた音楽のCDなど、故人のゆかりの品を一緒に飾ることで、遺族や会葬者の方々にも故人の生前の姿がより鮮明に思い出されます。
また、お棺に入れて副葬品とするのが難しいスポーツ用品や楽器、場合によっては自転車やバイクなどが展示されることもあります。
陶芸や絵画、書道など創作を趣味とされていた方なら、その作品を見ていただくこともよいでしょう。旅行が好きな方でしたら、故人が家族に買ってきてくれたお土産や旅の写真を飾ることもできます。
他にも、故人や家族の気持ちがこもったものであれば、どんな小さなものでもコーナーにふさわしくないものはありません。もし、展示したいものがたくさんありすぎて困ってしまうというときには、テーマをひとつにしぼって決めるのもよいでしょう。そこに、解説やメッセージの添え書きをすると、故人の知られざる一面を知ってもらったり、思い出をさらに深めてもらったりできるかもしれません。
メッセージは長く書く必要はありません。短くても、故人の人となりやエピソードが伝わるものだと、見ている側も楽しめます。
展示を通して、参列者に故人が愛した趣味に思いを馳せていただくこともまた、ご供養のひとつとなります。
参列者も「参加」できるメモリアルコーナー
例えば、学生時代のクラブ活動などで長く友情で結ばれた仲間がいて、故人の人生の中でその活動が大きな存在を占めていた場合。そうした友人と日頃から交流がある場合は、遺族の手元にはない写真や競技などに使う道具を借りることで、故人の縁を偲ぶメモリアルコーナーが作れます。
故人が特に誇りをもって取り組んでいた仕事があったときには、職場の同僚に仕事関係の道具や仕事中の写真などを貸してもらうことで、仕事に関連したコーナーが作れるでしょう。
この他、参列者が故人への最後のメッセージを綴ることのできる寄せ書き用の台紙が用意されることもあります。故人が指導や教育関連の仕事に携わっていた場合などには、参列者同士がそれぞれの故人への思いを共有しあい偲ぶ気持ちを深められるものとして、特に好まれる展示です。こうした寄せ書きは、副葬品として棺に入れるのが一般的です。
メモリアルコーナーを作るうえでの注意点
葬儀には、故人と縁の深い方から仕事上でしか付き合いはないという方まで、さまざまな方が参列します。
葬儀というきわめて限定された空間ではあっても、ある意味公開された場所ですから、見る人に意図が伝わりやすく、また当然ながら故人の品位をおとしめないような配慮も必要です。
特に写真の展示に関しては、家族や親族、友人も含めた周囲の人のプライベートにもできる限り配慮するよう、心がけましょう。
メモリアルコーナーを準備する時間は、大切な人の心に思いを馳せ寄り添って過ごすことのできる、貴重な時間になります。
故人のために気持ちをこめて作ったメモリアルコーナーは、参列者や家族の記憶にも深く刻まれるものとなるでしょう。