筋ジストロフィーを患い、それでも前向きに生涯を全うした実在の人物、鹿野靖明さんが主人公。要介護者と介護ボランティアという関係から映画は構成されているこの作品。超高齢化社会におけるこれら2つの視点からも、実在された方の記録としても、ご覧になられた方にそれぞれの思いが生まれる映画になるだろうと思い、鑑賞してきました。
物語は、よくあるお涙頂戴と言う感じではありません。
常に前向きな鹿野さんの生き方やキャラクターが、いろいろなことを楽しくしたり、たくまし生きることをく教えてくれたりする、そんな映画でした。
役作りで10キロやせたと言われる主演の大泉洋さんや、頷きたくなるほど自然な様子を見せてくれる高畑充希さんの演技を見るだけでも十分に楽しめる作品です。
作品に流れる3つの視点
さて、この作品は、3つの視点から見ることができます。
ひとつは要介護者としての「選択する生き方」です。
主人公の生き方というのが、実は誰にもはまる考え方だという感覚になれるのです。
何かに不自由を感じることがあり、自分では成しえないものがあると感じることがあるとすれば、それは要介護者だけの話ではありません。生活に不自由を感じていないとされる健常者でも、何かで苦しんだり悩んだりすることがあります。この当たり前のことをつい忘れてしまい心を痛めてしまう人がいます。「頼ればいい、できないんだから」
こんな言葉を明るく話しかけられてすっきりすることができるでしょう。
時にはその苦しさから人生をあきらめてしまう人も、年間2万人を超えるともいわれています。数字だけをみれば、ここ数年は減少しているとはいえ、これだけのいのちが自ら断たれているのです。これが現代の日本の問題ともされていますが、兎に角「生ること」をあきらめない。この映画の強いメッセージがそこにあるのだと思いました。
「美しく生きるの」ではなく、「わがままに生きる」
2つ目の視点はボランティアとして介護をしていたメンバーからの視点です。
人の手を借りなければならない生き方とは、周囲にとってはなんとも厄介なものなのでしょう。
そんなことを感じてしまうほどに悩み、諦めたり、挫折したり、睡眠不足や自分の家族や仕事のことを心配しながら、それでも鹿野さんのボランティアを継続している人がいたり。
映画を観ながら、果たして我身においてはこのような力があるのだろうか?と考えてしまいます。
必要なのは「一緒にいること事なのだ」と感じてきました。
そこに人が集まるのは、すべてをさらけ出して生きることにこだわった鹿野さんのエネルギーによるものだと思います。
「美しく生きるの」ではなく、「わがままに生きる」のです。夜中にバナナが食べたいと彼が言います。「こんな夜更けにバナナかよ」と、映画冒頭のこの言葉が映画のタイトルでもあり、そのシーンでは聞こえなかった言葉が、互いの関係を繋いてゆくうちに言い合える仲になれるのかもしれません。映画の中の関係性や様子を明確に表していました。
家族が犠牲になる必要はない
そして3つめの視点が、家族からのそれになります。
この映画での難病もそうですが、認知症も含めて今の日本ではやはり「介護は家族がするもの」と考えがちなのですが、それを強く拒絶する鹿野さんの気持ちがすべての考え方の原点でした。
親が自分自身の犠牲になる必要がなく、それぞれの人生を送ってほしいという願い。その強い願いが医者からの自立となり、その自立のためのボランティアを求める。そしてその強い思いをいつの間にか受け止めてしまったボランティアスタッフにもまた、彼から得る生き方という考え方や思いが十分にあったということなのでしょう。
映画の中ではこの大切な言葉が、母親に対して死後に手紙という形で明確にされているのですが、実在の鹿野さんの死後その記録が映画にまでなったのは、まさに介護を家族だけの問題にしないという強いメッセージが周囲に共感を得たものだと思います。
まとめ
おそらくはご覧になられた時に、なかなか頷けないこともたくさんある映画になるかもしれません。
ボランティアスタッフの醸し出す一体感、「俺は、友達と思っているよ」と鹿野さんに言われた田中君の気持ち、さらにはプロポーズをされた美咲の気持ちなど、当事者ではなければわからない感覚がたくさんあった映画なので、私もこの寄稿をするにあたり、自分の思いは大丈夫だろうか?などと思い、さらに言葉をどう選ぶのかを思案したものです。
しかし原点に返り終活映画の活かし方として寄稿させていただきました。それぞれの人生ドラマにどう関わるのかという一点においては、生き方考え方をもう一度見直したりする機会になりそうな映画でした。
今回ご紹介した映画
- 公開:2018年12月28日
- 監督:前田哲
- 出演:大泉洋、高畑充希、三浦春馬、萩原聖人、渡辺真起子、宇野祥平、韓英恵、竜雷太、綾戸智恵、佐藤浩市、原田美枝子ほか
この記事を書いた人
尾上正幸
(終活映画・ナビゲーター / 自分史活用推進協議会認定自分史アドバイザー / 株式会社東京葬祭取締役部長)
葬儀社に勤務する傍ら、終活ブーム以前よりエンディングノート活用や、後悔をしないための葬儀の知識などの講演を行う。終活の意義を、「自分自身の力になるためのライフデザイン」と再定義し、そのヒントは自分史にありと、終活関連、自分史関連の講演活動を積極的に展開。講演では終活映画・ナビゲーターとして、終活に関連する映画の紹介も必ず行っている。
著書:『実践エンディングノート』(共同通信社 2010年)、『本当に役立つ終活50問50答』(翔泳社 2015)