浄土真宗の宗派の一つである真宗大谷派は、親鸞聖人が確立した宗派で、「他力本願」を教えとしています。なぜ多くの人々に真宗大谷派が広く受け入れられたのでしょうか。そしてそこにはどのような時代背景があったのでしょうか。
真宗大谷派の歴史や、お参りの作法、年中行事など、知っておきたい特徴も併せてご紹介します。
目次
真宗大谷派と浄土真宗の歴史
真宗大谷派は、親鸞によって開かれた浄土真宗の宗派の一つです。元仁元年(1224年)に浄土真宗の根本聖典となる「教行信証」が執筆されたので、この年が立教開宗の年とされています。
親鸞は1173年に生まれ、9歳で得度した後、20年にわたって比叡山で修業を続けました。しかし次第に比叡山での修行にも行き詰まり、絶望感から下山することを選びます。
その後、浄土宗の宗祖である法然を訪ねた際に、法然の教えに感銘を受け、法然を師と仰ぐようになりました。親鸞は生涯にわたって「法然によって明らかにされた浄土往生を説く真実の教え」を受け継ぐこととなったのです。
ところが親鸞が35歳の時、当時の政権に圧力をかけられ越後国へ流刑に処されてしまいます。これは「承元の法難(じょうげんのほうなん)」として歴史に残る弾圧事件となりました。しかし親鸞は政権の弾圧にもめげず、1262年に亡くなるまで法然の教えを正しく伝えることに生涯を捧げたのでした。
浄土真宗が現在のように真宗大谷派と浄土真宗本願寺派に別れた理由については、1570年から1580年までの織田信長と石山本願寺との争いまでさかのぼります。石山本願寺一揆、石山合戦などとも呼ばれるもので、この時、信長との和睦と徹底抗戦で意見が対立しました。その後、豊臣秀吉の時代には京都に本願寺を建立しますが、この時の対立が跡継ぎ問題と絡み、徳川家康の時代に真宗大谷派(東)と浄土真宗本願寺派(西)に分裂することになります。
現在の真宗大谷派は、京都にある東本願寺を本山としており、門徒数が約550万人、8,900もの寺院が所属していると言われています。地域の分布では、真宗大谷派は愛知や岐阜など東海地方に特に広く分布しているようです。
真宗大谷派の教えと経典
誰でも仏になれる「他力本願」
真宗大谷派が属する浄土真宗の念仏は、阿弥陀如来を信じ、感謝の心をこめて唱える「他力本願」です。これは、阿弥陀如来に帰依(きえ)すると決めた時点で、誰でも仏になることが約束されているというものです。
そのため、阿弥陀如来に帰依した後の念仏は、仏になるために唱えるのではなく、仏になれたことへの感謝の表現として唱えるものです。
自分の修行などによって極楽浄土へ往生しようとする「自力念仏」ではなく、阿弥陀如来を信じ感謝の心とともに唱える「他力念仏」が真宗の念仏なのです。
また、浄土真宗には、「肉を食べてはいけない」「妻帯してはいけない」といった自らを律する戒めがありません。ただひたすら、阿弥陀如来を信じることが求められる宗派であり、「信心」という感情自体も阿弥陀如来から授かったものだという考えなのです。つまり、たとえ現世でよい行いをしていなくとも、阿弥陀如来の力があれば極楽浄土へ行けるということになります。
真宗大谷派でよく読まれる経典
こうした浄土真宗の教えは、「救済」として受け入れられ、多くの庶民に広まったと考えられています。
主な経典には「無量寿経(むりょうじゅきょう)」「観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)」「阿弥陀経(あみだきょう)」があります。これら3つの経典が浄土真宗の根本経典といわれ「浄土三部経」といいます。
また親鸞聖人の著した「教行信証(きょうぎょうしんしょう)」「正信念仏偈(しょうしんねんぶつげ)」などがあります。
このほか、経典ではありませんが、蓮如上人が真宗の教義を誰にでもわかりやすいように、平易な文章で書いた手紙「御文(おふみ)」も日々のお勤めの際などに、読まれます。
お唱えする念仏は「南無阿弥陀仏」です。
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念仏の読み方
同じく浄土真宗の本願寺派と比較すると、お参りにおける作法には、いくつかの違いがあります。念仏を唱える際に、真宗大谷派では「南無阿弥陀仏」を「なむあみだぶつ」と読みますが、本願寺派では「なもあみだぶつ」と読むという違いがあります。
数珠のかけ方
合掌する際の数珠のかけ方も異なります。
真宗大谷派では、房の部分を上にして持ち、房は左手側に垂らします。これに対し本願寺派では、房が下に来るようにして、親指で上を軽く押さえます。信仰の内容は同じですが、細かな作法が少しずつ違うのが特徴の一つです。
おつとめ(勤行)
毎日のおつとめ(勤行)では「正信偈(しょうしんげ)」を唱えます。
「正信偈」とは、親鸞が書いた教行信証の末尾に書かれている偈文(げもん)で、浄土真宗の教えの要点がまとめられていると考えられています。
焼香時の作法にも特徴があります。まず朝と夕方の1日2回、仏前に向かい、ロウソクを灯して香を焚き、お供えをします。線香は香炉灰に立てずに、半分程に折って寝かせて置きます。焼香は2回つまんで、額にはおしいただかずにお供えします。
その後「南無阿弥陀仏」と礼拝して、正信偈を唱えます。さらに最後にもう一度「南無阿弥陀仏」と礼拝するのが一連の作法です。
報恩講
真宗大谷派の法要の中で、最も大切な仏事は「報恩講(ほうおんこう)」です。親鸞が後世に残した恩徳をしのぶ集いであり、共に仏法を聞いて、心の依りどころを教えていただいた御恩に報謝して語り合う集いの場となっています。報恩講は、親鸞の祥月命日である11月28日の前後に行われます。本山である東本願寺では、命日当日までの1週間に勤められています。
仏壇の飾り方
本尊の阿弥陀如来を中央に安置します。
脇掛けは向かって右に「帰命尽十方無碍光如来」の十字名号、左に「南無不可思議光如来」の九字名号を飾ります。あるいは右に親鸞聖人、左に蓮如上人のご影像を掛けることもあります。脇掛けが十字名号・九字名号の場合、その前に仏飯器はそなえません。
金灯篭はご本尊と脇侍の間に吊るし、瓔珞・輪灯は脇侍の外側に飾ります。法名軸を飾る場所は仏壇の左右の壁面内側で、脇侍の外側にお祀りします。
また、同じ浄土真宗でも東西の違いがあります。例えば本尊の阿弥陀如来も後光の本数やかたちが異なるので注意が必要です。
※地域や仏壇の大小などによってまつり方に違いがありますので、正しくは菩提寺にお聞きください。
真宗大谷派の主な行事
1月1~3日 修正会(しゅしょうえ)
1月25日 法然上人 御祥月
3月25日 蓮如上人 御祥月
11月21~28日 報恩講(お取り越し)
12月29日 煤払
大晦日 歳末昏時(歳末勤行)
このほか、春・秋のお彼岸、7月(8月)のお盆などの行事もあります。
真宗大谷派の帰敬式とは
帰敬式とは、浄土真宗の門徒として、仏教に帰依することを誓う、大切な儀式です。受式することで、仏弟子として法名を授与されます。近年では法名は死後、葬儀のときに授かる方も多数いますが、本来は生前に授かるものです。帰敬式によって生前に法名を授かることで、葬儀のときに改めて法名を求める必要はありません。帰敬式は、原則、本山で行います。
また、真宗大谷派では、真宗本廟(東本願寺)でやはり毎日、朝と昼に帰敬式を行っているほか、全国の所属寺(菩提寺のことです)でも行っています。この場合、毎日ではなく、そのお寺で大きな儀式がある際に行うなど帰敬式の日は定められています。本山での帰敬式では本山で定められた法名を授けられるのに対し、各所属寺で帰敬式を行った場合、よりその人らしい法名を授けられるといえます。各門徒の希望に合わせて、どの寺院で帰敬式を受けるかを決めるとよいでしょう。
帰敬式当日の流れの例
帰敬式の流れとしては、受付けで冥加金(礼金)を支払い、開始の時刻がきたら帰敬式が始まります。
まず開式の辞(ことば)が述べられ、真宗宗歌を歌います。次に、カミソリの刃をあてる剃刀の儀・執行の辞と続き、法名を授かる法名伝達が行われます。
そして、浄土真宗の門徒としての誓いの辞を述べたら、勤行へと続きます。ここで、仏をほめたたえる正信偈(しょうしんげ)、和讃、念仏、死者を供養する回向(えこう)を唱えます。そして、門首・鍵役・住職などから法話をいただき、恩徳讃(おんどくさん)と呼ばれる和讃を斉唱し、閉式の辞をもって終了します。
帰敬式を受式するときは念珠が必要になるので、忘れずに自宅から持ってくるようにしましょう。
おかみそりの意味
おかみそりは、帰敬式で髪を剃り落とすことを指します。
本来は髪を落として仏門に入りますが、出家をしない在家と呼ばれる人たちに対しては、髪を剃り落としません。カミソリの刃を髪にあてるところで止めています。
仏門に入るときに、髪を落としたり、髪に刃をあてたりする理由については、目に映らない3つの髻(もとどり)を捨てるという意味があります。
髻は髪の束のことで、人には3つの髻があるといわれています。
1つは利得を意味する「利養」、2つ目は名声という意味の「名聞」、そして3つ目は人よりも優れている・勝っていたいという「勝他」です。利益を欲しがったり、名声を求めたり、人と比べたりするやましい心が、生まれます。おかみそりには、これらの心を捨てる意志が込められているのです。
真宗大谷派の主要な寺院【東本願寺】
親鸞の死後、弟子たちが遺骨を葬り、影像を安置したお廟を建てました。
そしてひ孫にあたる覺如(かくにょ)が、ここに阿弥陀仏を安置し「本願寺」と名付けました。これが現在真宗大谷派の総本山である東本願寺(真宗本廟)です。
御影堂には親鸞の御真影があり、阿弥陀堂にはご本尊の阿弥陀如来が安置されています。東本願寺を拠点とし、全国には別院が建てられていますが、別院は全国に52院あり、海外にも3院あります。
東本願寺では、年に数回大きな行事が開催されています。
先にご紹介した報恩講の他にも、修正会、春の法要、立教開祖記念法要、蓮如上人御下向式・御帰山式、盂蘭盆会、春秋彼岸会、煤払などが行われています。
他力本願の教えと作法で広く浸透した真宗大谷派
真宗大谷派が庶民に広く浸透した理由には、現世の行いにかかわらず「阿弥陀如来を信じること」で極楽浄土へ導かれる、ということがありました。またお参りの作法も、誰でもすぐ受け入れられるような分かりやすい内容です。
知識を得たとしても、実際に真宗大谷派での葬儀を執り行う際には、進め方を相談したいという方がいらっしゃるのではないでしょうか。弊社では経験豊富なスタッフがご相談をお受けいたします。どうぞお気軽にお問い合わせください。