回向文(えこうもん)とは、仏教において法要や日々のお勤めの終わりに読み上げる文章のことです。善行、すなわち道徳にかなった行為を積み重ねることで、その人に備わる徳を功徳(くどく)と呼びます。サンスクリット語の「グナ」を語源とする功徳ですが、この言葉にはもともと「幸福」「神聖」「清浄」という意味もあります。今回は回向文(えこうもん)について紹介します。
目次
回向(えこう)の意味とは?功徳を回らし向けること
よく「徳を積む」と言いますが、善い行いは優れた結果をもたらすと信じられています。仏教では寺院の塔やお堂を建てること、仏像を作ること、そして写経や念仏を唱えることもすべて善い行いであると考えられています。この善い行いの結果、目に見える形であらわれるのが御利益(ごりやく)や果報であり、善い行いをした人に備わる能力を功徳と言います。
このように善い行いでもたらされた功徳を回(めぐら)し向けることを回向(えこう)と言います。
回向(えこう)の歴史と仏教との関係
回向とは、サンスクリット語のパリナーマナーを語源としていて、「成熟」「発展」「変更」「変化」などの意味を持ちます。「廻向」とも書きます。
回向はもともと功徳を自分の家族に回し向けるだけでしたが、大乗仏教の発展によって回向の対象が家族以外に広がりました。そして、功徳を自分だけのものとするより、できるだけ多くの人、あるいは生きとし生けるものすべてに回し向けて分かち合う方が理想的な功徳であると考えられるようになりました。
念仏を唱えることによる功徳をすべての人に回し向けることで、皆がともに極楽往生(ごくらくおうじょう)できるとする考え方もそのひとつです。こうした考え方が転じて、法事で読経しながら亡くなった人の冥福を祈ることを回向と呼ぶようになりました。
天台宗・真言宗の回向文【例文】
「願わくは この功徳を以(も)って 普(あまね)く一切に及ぼし 我等と衆生(しゅじょう)と 皆共(みなとも)に仏道を成(じょう)ぜん」
※語尾に「ことを」が付く場合もあります。
上記はおもに天台宗と真言宗で唱える回向文です。
現代語に書き下すと「私の善い行いの果報が、この世の中のありとあらゆる存在すべてに広く行きわたり、私を含めたすべての人と、生きとし生けるものとが、お互いに対して深い慈しみの心を持って、自ら勤め励む道をたえまなく進んでいくことを願います」となります。宗派にもよりますが、回向文は一般の信者は訓読みで読誦し、僧侶は以下のように漢文のまま読み上げることが多いようです。
「願以此功徳(がんにしくどく) 普及於一切(ふぎゅうおいっさい)
我等與衆生(がとうよしゅじょう) 皆共成佛道(かいぐじょうぶつどう)」
浄土宗・浄土真宗の回向文【例文】
同じように浄土宗や浄土真宗の回向文も漢文のまま音読みすると以下の通りです。
「願似此功德(がんにしくどく) 平等施一切(びょうどうせいっさい)
同發菩提心(どうほつぼだいしん) 往生安樂國(おうじょうあんらっこく)」
書き下すと「願わくはこの功徳をもって平等に一切に施(ほどこ)して同じく菩提心をおこして 安楽国に往生せん」となります。上記がもっともよく読まれる回向文ですが、浄土宗や浄土真宗にはこれ以外にもいくつかの回向文があり、特に浄土真宗では下記の回向文も用いられます。
「世尊我一心(せそんがいっしん) 歸命盡十方(きみょうじんじっぽう)
無碍光如來(むげこうにょらい) 願生安樂國(がんしょうあんらくこく)」
書き下し:世尊、我一心に尽十方無碍光如来(じんじっぽうむげこうにょらい)に帰命(きみょう)して安楽国に生まれんと願う。
※世尊とはお釈迦さま、尽十方無碍光如来は阿弥陀如来のことです。
曹洞宗・臨済宗の回向文【例文】
曹洞宗と臨済宗はともに禅宗であるため、回向文もほぼ共通しています。前半は真言宗や天台宗と同じですが、そのあとに略三宝(りゃくさんぽう)を唱えます。略三宝とは、仏教における三つの宝、仏・僧・法(教え)に感謝し、その功徳を十方(あらゆる方向)に向けるというものです。
「十方三世一切仏(じっほうさんしいっしふう)
諸尊菩薩摩訶薩(しそんふうさもこさ)
摩訶般若波羅蜜(もこほじゃほろみ)」
また、これらの宗派では、ご本尊に対する回向や宗祖などの高僧に対する回向、そしてご先祖さまを供養するための回向など、さまざまな回向文があります。これらの回向文は法会の次第などで順番が変わるので、必ずしも最後に読むとは限りません。
日蓮宗などの回向文【例文】
日蓮宗ではさらに多くの回向文があります。他の宗派に比べてとても長く、回向文だけでも読み上げるのに数分かかることがあります。そして文中で、亡き人の戒名や法要を執り行う家名を読み上げることもあります。
回向文は宗派によって唱える文章が違う
このように回向文は宗派によって唱える文章が違います。しかし、その意味するところは同じで、功徳をできるだけ多くの人と分かち合うことが理想的な功徳の形であるとしています。詳しくは寺院または葬儀社にお尋ねください。また、「いい葬儀」ではご希望の宗旨・宗派の寺院や僧侶のご紹介もしていますので、葬儀に関してお困りの方はお気軽にご相談ください。