葬儀で使われる幕とは、葬儀の際、祭壇の前や部屋の壁などさまざまな場所に張られる幕のこと。
代表的なのは鯨幕(くじらまく)で、黒と白の2色が縦に入った幕を指します。弔事に使われるイメージの強い鯨幕ですが、実は弔事・慶事関係なく使用が可能です。葬儀において幕が果たす役割はさまざまで、地域によって使い方やマナーに違いがあります。
ここでは、葬儀で使う幕の歴史や種類、鯨幕の特徴やレンタル・販売価格を紹介します。
目次
葬儀での幕の役割とは
葬儀会場で張る幕には、いくつかの役割があります。
葬儀を行うことを知らせる役割
葬儀は、専用の式場だけでなく自宅や寺院、貸ホールなどで行われることもあるため、その場所で葬儀が営まれることを周囲に知らせることができます。
式場の雰囲気を作り上げる役割
幕を張ると場内の雰囲気が引き締まるので、厳かな雰囲気を醸し出すことができます。
見せたくない部分を隠す役割
日常的な場を非日常的な葬儀会場にするために、生活感があり雰囲気が損なわれる場所を隠す狙いがあるといわれています。
結界を作る役割
盛り塩やしめ縄と同じように、その空間を清めて結界を作り、「浄」の場と「不浄」の場を分けているとも考えられています。
幕の種類とは

幕には種類があり、種類ごとに役割が分かれています。目にすることの多い、白と黒2色の縦縞模様でできている幕は「鯨幕」です。これは式場内や建物周辺、受付などに下げられます。
鯨幕以外にも種類がありますので、代表的な幕を順にご紹介いたします。
水引幕(みずひきまく)
水引幕とは、葬儀会場の入り口や祭壇の手前、室内の四方などに天井から垂らした、幅が短い幕のことを指します。白いものが主流ですが、ひだ幕、絵幕、ぼかし染め幕などおしゃれなタイプの水引幕も使われています。また、レース、金襴といった材質の幕もあります。
家紋が入った水引幕は祭壇の前部中央といった最も目立つ場所に飾られ、中央に房を垂らし、形を整えて張られます。
かつては、葬儀が行われるときに仮門を建て、その4本の柱に屋根を乗せ、そこに水引幕をまわしていたともいわれています。
そして水引幕は、葬儀会場の場を清める役割や、神様や仏様が宿る場所とその他の場所とを分ける役割も果たしています。
現在では家族葬や直葬を選ぶご家族が増えているため、水引幕を使用する機会は減りつつあります。
浅黄幕(あさぎまく)

浅黄幕とは、濃い青色と白との2色で構成される、縦縞模様の幕です。鯨幕の色違いとお考えいただくと分かりやすいでしょう。しかし、歴史は鯨幕よりも長いとされ、この幕が張られている場所は部外者が立ち入ることのできない神聖な場所とされています。
浅黄幕は地域によっては慶事に使用することもあり、現代の皇室行事においても、新年祝賀の儀や園遊会などで浅黄幕が用いられています。また、仏式を含む葬儀全般に使用したり、若くしてこの世を去った人が出たときに使用したり、神式の葬儀で鯨幕の代わりに使ったりと、地域によって用途は実にさまざまです。この幕を使う際は、必ず事前に地域の慣習を確認するようにしましょう。
江戸時代より前は、葬儀に浅黄幕を用いるケースが多くありました。その後西洋文化の影響を受け、江戸時代から明治時代にかけて「黒色」を主体とした鯨幕が葬儀の際に使われることが増えました。
朽木幕(くちきまく)
朽木幕とは神道式の葬儀で使用される幕で、仏式の葬儀での鯨幕にあたります。
朽木とは模様の名前のことで、木が朽ちてその木目が浮かび上がったような模様であることから、このような呼び方をするようになりました。白地に紫の模様が施されていて、祭壇の上部に飾られることが一般的です。また、神道の葬儀ではここにしめ縄を飾ります。
朽木幕は、平安時代には「壁代」または「几帳」と呼ばれていて、大部屋を間仕切るための幕として使われていました。現在でも、神社にはこの風習が残っています。
その他の幕
他にも、葬儀で使われる幕には以下のような種類があります。
ドレープ幕
祭壇の後方を飾る、厚地の生地で仕立てたカーテンを指します。主に、葬儀会場で壁を隠すために使われています。
焼香幕
「御焼香所」と書かれた幕で、焼香台の周りに張り、焼香をする場所を分かりやすくするために用いられます。
受付幕
受付台の周りに張り、受付の場所を分かりやすくするために用いられます。
青幕・黒幕
自宅で通夜や葬儀を行うとき、作り付けの家具を覆うために使うことがあります。
葬儀会場によって使用する幕は異なりますが、幕の使用料金は葬儀プランに含まれていることがほとんどです。適切な場所で適切な幕を使えるように、あらかじめ内容を確認しておきましょう。
鯨幕とは?

鯨幕とは、白と黒の布を交互に縦に縫い合わせた幔幕(まんまく)です。
幔幕というのは、布を縦に縫い合わせた幕のことで、上端、または上下の端の部分だけ横布を縫い合わせることもあります。式場など行事が行われる場所を外部と遮蔽したり、飾りとして用いられてきました。
幔幕は白と紅、白と黒など交互に全く異なる色をつなぎ合わせたことから班幕(まだらまく)ともいわれ、中でも白と黒の縦縞になったものを、特に鯨幕といいます。
鯨幕の特徴
鯨幕の特徴は、なんといってもその色合いです。黒と白2色の縦縞が交互に入っており、遠くからでも人の目を引きます。その色合いが黒と白の鯨の特徴と似ているということから、その名がついたとされる説があります。また鯨の黒い皮と白い脂肪を連想させるとして、名前がついたという説もあります。どちらにしてもその特徴的な色合いから、鯨という名前がついたようです。ただ、もともとは白と黒ではなく、白と紺が使われていたといわれています。
かつて自宅葬が主流だったころは、お葬式というと、室内はもとより、屋外にも鯨幕が張られていました。葬儀会館などで葬儀を行うようになっても、式場の内外に鯨幕を張っていました。しかし自宅以外での葬儀が主流になり、葬儀会館も家族葬などに対応した専門の式場やホールが増える中、鯨幕を目にする機会も減少しています。
なぜ葬儀に鯨幕を使用するの?
鯨幕といえば通夜や葬儀などに使用されるものというイメージが強いですが、実際弔事に使用されるようになったのは昭和初期以降と、実は最近のことです。もともと鯨幕は悲しみの場だけでなく、結婚式などのおめでたい場にも使用されていました。実際に皇室などでは今でも慶事に使用されています。
一方、葬儀では古くは白い幕が、また鯨幕が用いられるようになる前は、黒い幕が使われていたといわれています。
ではなぜ一般的に葬儀や通夜などに鯨幕を使用するようになったのでしょうか。それはもともと高貴な色とされていた黒い色が、明治以降に海外の影響を受け、お悔やみや悲しみのイメージが強くなったからです。そのため黒い色が入った鯨幕はお祝いのイメージと合わず、だんだんと葬儀や通夜などだけで使われるようになったといわれています。
現在では、おめでたい席には赤と白の2色が縦に入った紅白幕が使われることが多いです。神事では、青と白の2色が縦に入った幕が使用されることもあります。また、皇室や古くからのしきたりを守る方の中には、現在でもおめでたい席に鯨幕を使用する方もいます。
鯨幕の役割とは?
鯨幕は、幕を張ることで葬儀場所を仕切ったり、見せたくない所を隠したりするのに使用されるのが主な役割です。そのため鯨幕は、すべての人が使用しなければいけないというものではありません。宗派などによっても取り扱いは異なりますので、鯨幕を使用するかどうか悩んだ場合は、葬儀会社やお寺に問い合わせるとよいでしょう。
鯨幕のレンタルする場合の費用の目安と注意点

鯨幕を葬儀などに使用したい場合、どれくらいの金額がかかるのでしょうか。鯨幕をレンタルした場合の価格を調べてみました。
例えば高さ180cm、横幅3間(5m前後)あるナイロン製の一般的な鯨幕を2泊3日でレンタルする場合、価格は2,500円前後のようです。
もう少し大きいサイズの高さ180cm、横幅5間(9m前後)ある鯨幕のレンタル費用は3,500円程度のようです。ただし、レンタルには送料が別にかかる場合があります。
幕をレンタルする場合に注意してほしいのが、式場に設置するためのひもやロープは自分で通さなければいけない点です。あらかじめひもなどが通っているタイプの幕は追加料金がかかることがあります。もし「ひもを通すのが面倒だから」と幕に直接両面テープやガムテープを貼り付けると、返却時に汚れとみなされクリーニング代を請求されてしまうこともあります。もちろん他の過失による汚れや破損も同様です。鯨幕は会場の外に張ることも多いものですから、レンタルの幕を使用する場合は取り扱いに注意しましょう。
鯨幕を購入する場合の販売価格の目安と注意点
ではレンタルではなく、鯨幕を自分で購入する場合はいくらくらいかかるのでしょうか。鯨幕を購入する時の参考になるよう、販売価格を調べてみました。
例えば高さ180cm、横幅3間(5m前後)ある鯨幕を購入する場合は15,000円前後、高さ180cm、横幅5間(9m前後)あるものは20,000円前後が一般的な価格のようです。葬儀や通夜だけでなく、今後何かしら行事があり、複数回鯨幕を使用する予定があれば、レンタルよりもお得になるかもしれません。
ただし、鯨幕は生地の厚さや材質などによって、価格にかなり差があります。例えば深く濃い色合いで格式を感じさせる、綿製で厚い鯨幕を購入する場合です。テトロンと呼ばれる一般的なナイロン製の商品と比較すれば、1.5倍程度価格が高くなります。
また注文してから商品が手元に届くまで1週間から10日程度時間がかかる場合も多いので、注意が必要です。鯨幕を購入して葬儀や通夜に使用したいという方は、幕の納期が使用したい日に間に合うかどうか、注文する前に必ず業者に確認しておきましょう。
まとめ
仏式や神式といった葬儀形式や、葬儀を行う場所によって、使用する幕は異なります。また、鯨幕と浅黄幕のどちらを使うかといった、地域による違いにも注意が必要です。最近では開閉のできるレースのような幕を祭壇の前に吊り、そこに思い出の映像を映すことができる葬儀式場もあります。後ろの祭壇がうっすらと見える、奥行きのある映像の演出が可能です。
葬儀に鯨幕をはじめとする幕を取り入れるべきか悩んでいる方、レンタルにするか購入するか迷っているという方は、まずはご相談だけでも構いませんのでお気軽にお問い合せください。