「定年って生前葬だな…」
衝撃的な書き出しからはじまるベストセラー小説『終わった人』(原作:内館牧子 講談社)がついに映画化。舘ひろしさんが演じる、エリートサラリーマンの定年後のストーリー。定年という生前葬を迎えたその先の生きざまを、仕事、家族、仲間そして生きがいという複数の視点で描いています。
終活をしている人も、終活なんてまだまだ先という人もお楽しみいただけるこの映画。今回は、その魅力をご紹介します。
「散る桜 残る桜も 散る桜」定年と生前葬
物語は、一流企業のエリートサラリーマンだった田代壮介(舘ひろし)が、定年を迎えるところからはじまります。出世コースを外れ、子会社に出向したまま定年を迎えた壮介は、会社の規定で黒塗りのハイヤーに乗せられ自宅まで運ばれていきます。そんな自分の姿を生前葬になぞらえるところから。
仕事一筋だったがゆえに、定年してしまうとやることがない壮介。そんな彼を支えながらも、自分の人生を進みだす美容師の妻、田代千草(黒木瞳)。夫婦の歩む道にはいつしか溝が……。カルチャースクール通いや再就職など、定年後もなお波乱万丈な生きざまは、これまで日本を支えてきた人々の生き方、そのもののようです。
良寛の辞世の句「散る桜 残る桜も 散る桜」も、物語の中にいろいろな意味で花を添えています。
ちなみに、冒頭の台詞「生前葬」というのは、その名の通り生前、つまりまだ生きているうちに行う葬儀です。
この映画でも描かれているように、まさに定年などを機会に、社会的な活動に区切りをつけたり、元気なうちにお世話になった人や親しかった人たちに感謝やお別れを伝えたり。それまでの社会的なつながりにひとつの区切りをつけ、新しい人生を歩むために行う人が多いようです。
人生に生きるきっかけをくれるのは?
さて、映画は主人公やその家族、周囲の人々の姿を小気味よく描き出すことで、今の日本の社会、超高齢化がリアルに浮かび上がってきます。
そんな意味では、終活の一歩手前。まだまだ生きる、人のエネルギーに溢れています。その力強さは、いろいろな死をきっかけに、迷い、傷を負う中から、生まれるもののように感じます。少し離れたところにある死を考えることで、今生きていることがより鮮明に浮かんでくるような気がします。
定年の後もずっと続く人生を描く、監督は中田秀夫さん
4人に1人が65歳以上という超高齢化が進む中、定年になってもまだまだ人生は続きます。好むと好まざるとにかかわらず、第二の人生と向き合っていかなければなりません。そんなシニア世代の今日的問題をシリアスに、そしてユーモラスに描いたこの作品。
監督は、『リング』『仄暗い水の底から』やハリウッド作品『ザ・リング2』など数々のホラー作品を手掛けた中田秀夫さん。笑って泣ける人間喜劇は今回が初めての挑戦といいます。
また、主題歌「あなたはあなたのままでいい」を歌うのは今井美樹さん。そして作詞・作曲は布袋寅泰さん。今日も自分らしく生きていたいと願う人へのエールになることを願って作られたそうです。
等身大の人間模様でつづられた定年コメディ『終わった人』。
「そろそろ終活、考えてみようかな?」という方はもちろん、「まだまだ、終活なんて先の話だよ」という方にもぜひ、おすすめしたい一本です。
『終わった人』
出演:
舘ひろし
黒木瞳
広末涼子
臼田あさ美
今井翼
ベンガル
清水ミチコ
温水洋一
高畑淳子
岩崎加根子
渡辺哲
田口トモロヲ
笹野高史
原作:内館牧子『終わった人』(講談社刊)
脚本:根本ノンジ
音楽:梅田庄吾
監督:中田秀夫
主題歌:今井美樹「あなたはあなたのままでいい」
2018年6月9日(土) 全国ロードショー