「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

友への手紙

魂の同行二人旅

清水 正行(埼玉県比企郡)68歳

お久しぶりです、会長。
貴方が亡くなられて、瞬く間に四年の歳月が流れました。その間私は、幾つもの旅をさせてもらいました。
どこへ? もちろん貴方と一緒に取材して回った、あの懐かしい場所たちですよ。
私は貴方からの有難い任命で、季刊『こころ』の編集長を長く務めさせていただきました。その終わりの五年くらいは、毎号、発行者である貴方と連れ立って、各号の特集テーマに沿った歴史的人物のいる土地へと、取材に繰り出しました。私が車のハンドルを取り、貴方の他に二名を乗せて、総勢四名による思い出深い旅でした。
貴方が亡くなられ、雑誌も廃刊となったとき、私は仕事から放り出されて胸に風穴を抱えておりました。その虚しさを埋めるために、ふと思いついたのが貴方との故地を順に再訪してみるということだったのです。言わば貴方の魂と連れ立っての、同行二人旅です。
初めに会津に行きました。該当の『こころ』を握り締めて、かつての取材先を回りましたが、貴方と意気投合されていた議会事務局長さんは既にお亡くなりでした。鶴ヶ城や飯盛山の至る所に、貴方の笑顔や河井継之助への熱弁が生々しく残っていました。
貴方は気骨のある歴史上の人物が何よりもお好きでした。今市の二宮尊徳の墓所では泣いておられましたね。他にも多くの偉人を調査しては、食い入るように資料を見詰め、関係者に取材しておられました。ご高齢にもかかわらず、また酸素ボンベを携えた旅であったことにもめげず、貴方の向学心に私はいつも低頭するばかりでした。
そうそう、ご自身の人生訓「随処に主となる」を特集した折、貴方の選んだ人物は佐久間象山でしたね。松代の象山神社では人生観を重ね合い、深夜まで意見交換したものでした。先日あの部屋を訪ね、懐かしさに思わず涙を流してしまいました。

貴方と訪問した土地は十指に余りますが、既に全て辿り終えました。
私は今貴方の墓碑を見上げながら、またしても虚しさに包まれています。
貴方と一緒に史跡を訪ね歩き、人間の生き方を学んだあの歳月こそ、私の魂をこよなく育てた充実の日々でした。仕事の中で生き甲斐を拾い集めていた私なんです。
冥界では恐らく、古聖賢と歓談されておられることでしょうね。よろしかったら、私も遠くない将来にお仲間に入れて下さい。


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