「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

子どもたちへの手紙

あなたに

今吉 由美子 (福岡県北九州市)64歳

月並みだけど、月日の経つのは早いものですね。
あなたが逝って独りになって、もう十年になるのですよ。
あなたを失ってから、私がどのように過ごしてきたか――あなたは其処から御覧になってたでしょうからお分かりでしょ?
「俺の分まで楽しく生きろ」と諭されて、私なりに頑張って楽しく過ごして来たつもりです。
あなたと出逢って三十二年、夫婦となって二十三年。ご多分に洩れずの紆余曲折でした。
あなたはずっと何をしても私は許してくれると思ってたでしょ?
幾つかあったあなたのおいたを知ってはいても、私は一度もそれを口にしませんでした。
おいたを責めたところで、私に嘘のつけないあなたは、口を閉ざすか、開き直るかのどちらかだと知っていたもの。
眼が泳ぐあなたの悪戯っ子のような顔を、私は何度見たことでしょう。
私はあなたの親兄弟、そしてあなたを知る誰よりも長くあなたを見つめていたのですから、あなたの事はよく解っていると思っていましたし、今でもそう自負しています。
あなたにとって、五歳年上だった私が、良い女房だったとは思っていません。私はあなたを失いたくなかった――唯それだけのこと。それはあなたが一番知っていた筈です。
私は幼い頃から諍い事は嫌いでした。しょっちゅう見聞きし、いつも愛されたいと願いながら大人になりました。その中で私は我慢する術を身につけました。
そんな私は、あなたにとって、とても重い存在だったのかも知れません。
我慢を続け、知らない振りをして、波風立てずに過ごす事が必ずしも夫婦の幸せではないのだと、今、自嘲しつつ反省しています。
大病で一年半の日々を思い煩い、五十年しか生きられなかったあなた――私と娘の行く末だけを案じ、最後に「ありがとう」という、たった五文字の言葉を遺して逝ったあなたを想う時、十年経った今でも、目頭が熱くなるのを覚え、重かったであろう私の想いを受け入れてくれた事への感謝の念が溢れ出ます。
少しずつあなたに続く私の径は近くなっています。
何時になるかは分からないけれど、そちらで逢えたら、あなたが驚くほど、私は我が儘になっているかも知れません。そしてあなたに精一杯甘えたい! そう夢見ています。
そうなっても、また私を受け入れて下さい。お願いよ。


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