「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

子どもたちへの手紙

未だ伝わってないよ

小熊 恵美子(宮城県亘理郡)66歳

前略、親方が末期癌で入院し、毎日病室に入る時、私は決まって「生きてるかぁい」と言いながらベッドに近づきましたね。「おう! 今日も生きてるよ」これが私たち夫婦の合言葉。
でも娘には「何て不謹慎な会話なの? 信じられないよ」と怒られていました。
でも最近、「お母さんがどんな気持ちでそんな言葉をかけ看病していたか判るよ。自分はショックで何もしてあげられなかったけど、お母さん頑張ったね、大分遅くなったけどありがとう!」ですって。
あれから三年半、東日本大震災が発生し、すぐそばまで津波が押し寄せ、娘と二人、どんなに不安な日々を過した事か。
親方が生きていたら何て励ましてくれただろうか。
体格もいいし何事にも動じなかったラガーマン。
「親方がキャプテンじゃ優勝しなかったべなぁ。だって余りにも鈍足過ぎて」なんて、けなし続けて、本当にゴメンナサイ。
結婚して四十年、大晦日を人並みに家で過ごすのが私の夢でしたが、毎年、何かしら理由をつけ、朝まで店を営業。結局盆も正月も無く、黙々と仕事だけしている。つまらない男と結婚したもんだと諦めていましたよ。
店の常連さんが
「おかみさんが店を休むと親方、寂しそうだよ、すぐ惚気(のろけ)話をしてニンマリ」
無口な親方が? 信じられない! 私には何も伝わって無かったよ。
ただ一つ、今でも不思議に思う事があります。
それはメールを打てないあなたが、死の直前「つづけることがだいじだよ」とメールしてきた事。
何を! 多分卓球の練習を続けなさいって事だろうと理解しましたが、ピンポーンですよね。オヤジギャグの好きなあんたの奥さんらしいコメントでしょ!
「携帯電話は電話さえできれば充分さ」とメールが打てない言い訳をしていたけど、長時間かけ、全部ひらがなで、最初で最後のメールを送信してくれたんだね、素直に嬉しかったよ。
これからも寂しくなったらこのメールを読み返し娘と二人、命を楽しんでいこうとおもっています。

草々

追伸
一月末に車に追突され、私の車は全損。
でも外傷もなく、奇跡の生還。
守ってくれたのね、ありがとう!


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