「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

子どもたちへの手紙

実りのとき

大城 未沙央(石川県金沢市)54歳

あっという間でしたね、ヒロさん。 
出会い、結婚、別れと。共に過ごした二年間は、一気に駆け抜けてきた感じです。
神様がふたりのためにデザインしてくれた人生だと思いますが、一瞬の出来事のような気がして、ヒロさんと巡り会ったことすらまだ実感がありません。
「同じ苗字」の同級生同士。三十五年ぶりに故郷で再会し、「外国から帰国したばかり」「絵を描く」というお互いの共通点に驚いて、五十代で一緒になった私たち。
高齢、過疎化が進む地域の古民家を再生し、アートの空間を創って村おこしをしようと将来を誓い合ったのでした。
ところが、入籍直後に腹痛を訴えて検査、原因不明で数々の病院を転々とし、ついには、余命二ヵ月の末期ガンを宣告されたヒロさん。
医師たちに「手遅れで治療法がない」と告げられたとき、
「僕たちは結婚したばかりです。命がある限り、ギリギリまで働いて妻と共に過ごしたい。自分で治します」
と気丈でした。
病院から戻ると、早朝から夕方まで猛スピードで大工仕事や庭作業に精を出す。その姿を見ていると、私も夢中で走る以外に術はありませんでした。
日暮れ時、無口になる私に「大丈夫、このくらいで死んでたまるか! 奇跡は起きる。いや、起こすのだ」と笑い飛ばしていましたね。
廃屋状態だった家にようやく息吹が感じられるようになり、これから一緒に絵が描ける、と思った頃、ヒロさんは逝ってしまいました。
あれから、庭先の木々が天に誘われるようにぐんぐん伸びていきます。そして、新緑の若葉と赤や黄色の花々が、澄んだ青空のキャンパスに美しく映えるようになりました。
朝は、風のメロディーに合わせて小鳥たちが歌い、舞い踊っています。
大きな木の額縁には、つがいの山鳩がいつも仲良くとまっています。
昼下がりになると、近所のお年寄りたちがとれたて野菜を両手いっぱいに抱えてきて、ヒロさん手作りの木陰のベンチで涼みます。
皆さん、口々に「よく頑張ったね。この家は村中の誇り。ありがとう」と言います。
そのたびに、私は声にならない「お疲れ様」で空を見上げてしまいます。


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