「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

母への手紙

渡せなかったプレゼント

なつかし屋(三重県鈴鹿市)44歳

先日実家へ行き、学生の頃に読んでいた本や漫画を片付けました。あまりの量の多さに「古本屋へ売りにいこうかな」と思い、押し入れを開けて適当な大きさの段ボール箱を探していた私は……、「それ」に気がついたのです。「それ」は大きな段ボール箱でした。箱の中には――母さん、あなたへの“母の日のプレゼント”が詰まっていました。それは、渡すことができなかったプレゼントたち。
一九九四年五月、母の日。私はあなたにサマーセーターを買っていました。メッセージカードも添えられています。「母さん、大好き。会いたいよ」。 
――あれから、もう二十年も経っているのに。私の心は、簡単に“あの日”へと戻っていきました。あなたが亡くなってから訪れた、最初の母の日へ。
贈り物をするあなたはもういないのに、私はプレゼントを買ってしまいました。「母の日のプレゼントでよろしかったですか? お包みしますね」販売員の言葉に、虚ろに頷いたのを覚えています。……こんなことをしても、悲しいだけなのに。いつまでも立ち直っていない私を見たら、父さんだって苦しむのに……。でも、買わずにはいられなかったのです。あなたがいたら「似合うかなあ」と選んだであろうサマーセーター。もういないからというだけでプレゼントを貰えないあなたが可哀そうで――。いいえ、本当のことを言えば、私は自分が可哀そうだったのです。“もう母に贈り物ができない”自分が、耐えられないほど苦しかったのです。
それからも毎年、毎年。母の日が来るたびに、私はプレゼントを選びました。渡す人のいないプレゼントたちは、人目につかない押し入れの段ボールの中に溜まっていきました。それは、私が結婚して実家を出ていくまで続いたのです。
私は懐かしく、プレゼントたちを並べました。サマーセーターにスカート。ブラウス、エプロン、鍋つかみ、財布、スカーフ……。
「どれも、私が使えそう。……いつのまにか母さんが亡くなった歳に近付いてきたんだね」
そう言って、仏壇に手を合わせました。
あなたが着るはずだったブラウスやエプロンを身につけて鏡をみると、そこには、母さんあなたにそっくりになった私が写っていましたよ。私は鏡に向かって最高の笑顔を作りました。
「母さん、私笑ってるでしょ? 強くなったでしょ? もう大丈夫」
そう呟くと、渡せなかったプレゼントたちが長年の呪縛から解き放たれたように見えました。


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