「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

友への手紙

親愛なるマスターへ

青い空の城下街(神奈川県大和市)44歳

「今年もマスターから年賀状が来てない」と妻に言われ、私は「きっと体調を崩していて、入院しているかもしれないね」と答えました。
マスターと初めて会ったのは、私が大学生の頃、もう二十年以上前です。
私が尊敬する歴史上の人物が生まれた場所にある喫茶店は、マスターと、マスターのお母さんが営んでいる小さな喫茶店でした。
社会人になっても、遠く離れた街にあるマスターのお店に、長期休暇になると訪ねました。
そうそう、妻と知り合った次の日に、二人で行ったのもマスターのお店でしたね。
私達の結婚披露宴にも遠くから駆けつけてくれました。
娘が生まれて、妻と私の三人で訪ねた時は、とても喜んでくれましたね。
いつだったか、マスターのお母さんが教えてくれました。
ずっと昔、若い頃にマスターは、私と同じように東京で会社員として働いていたそうですね。
体調を崩して、心も疲れて、故郷の街に帰って来たそうですね。
マスターは若い時の自分の姿を私と重ねて見ていると。
この前の週末、何年かぶりにマスターの住む街に行きました。
風の噂でお店は閉められたと聞いていました。
一度だけ夕食をご馳走になったマスターの自宅は、すっかり静まりかえっていました。
ご近所の方にマスターが一年以上前に旅立たれたことを教えてもらいました。
入院されて、すぐに旅立たれたんですね。
いろいろ考えましたが、きっと、マスターは、あの大好きな自分のお店に帰って来たかったんでしょう。
私の父は、私が子供の頃に母と離婚して、もう何十年も会っていません。
私にとって、マスター、あなたが親父であり、兄貴のような人でした。
これからも、あなたといろいろ話したかったです。
最後にさようならではなくて、ありがとうが言いたかったな。
またあのマスターのお店で、マスターのコーヒーが飲みたかった。


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