「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

父への手紙

おっとうへ

ゆき(福岡県福岡市)23歳

高校を卒業したら会いに行って、「今までごめんなさい」って言おうと決めてたんだよ。
十四歳の冬、荷物をまとめて、おっとうが仕事に行ってる間に家出しようとした時。それまで一度もそんなことなかったのに、忘れ物を取りに帰ってきたよね。
あの時の、おっとうの悲しそうな顔は今でもはっきり覚えてるよ。
「なんでや」ってきかれて、「幸せじゃないから」って答えたけど、そんなの嘘だよ。
あの頃の私は色んなことにイライラしていて、はっきりした理由なんかなかった。
私の好きなアイスをいつも買って帰ってきてくれたり、休みの日には色んなところに連れて行ってくれたり、私が楽しいように頑張ってくれてたの、知っていたよ。
結局、家出しちゃって……。
電話もメールもくれたのに、何度も会いに来てくれたのに、無視し続けてた。
私意地っ張りだし、合わせる顔もないし、どうしたらいいかわからなかったの。
おっとうが亡くなったって知ったのは、高校卒業を目前にした一月。
なんで“卒業したら”なんて思ったんだろう。
息を引き取る時、何を思っただろう。傍に誰かいたかな? 寂しくなかったかな? なんてことをしたんだろう。
きっとみんなが嘘ついてるんだ。まだきっとどこかで生きている、としか思えなくなって、携帯に何度も電話しました。ずっと無視していたから、仕返しされてるんだとまで思ったよ。
それから五年。私は今、大学院で心理学を勉強しています。おっとうと向き合う五年間でした。
その中でひとつ思い出したことがあります。
おっとうはいつも言っていたよね。「俺はお前を信じる」って。そして、「幸せじゃないから」って言った時も、「お前がそれで幸せになると思うなら、俺もそれを信じる」って言ってたね。
その後、決断を迫られるとき、この言葉がいつも頭に浮かびます。私の決断を、おっとうはきっと信じてくれる。そう思うと、少し怖くても、一歩踏み出せます。
ひどいことをしたし、ごめんなさいも言えなかったけど、おっとうは私を大切に思ってくれたし、きっと幸せを望んでくれているよね。
自分の爪を見た時、自分の鼻を見た時、おっとうに会えたようで、何だか笑っちゃいます。
二度とあんな後悔をしないように、自分だけじゃなく、周りの人たちも幸せになれるように。自分を信じてやってみようと思います。
おっとう、ごめんね。本当にありがとう。おっとうの娘に生まれて幸せだよ。大好き。

ゆきより


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