「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

祖母への手紙

残された私の使命

堀江 美里(栃木県足利市)18歳

ほんの少し夜の匂いを感じ始めた夕暮。私は鍵のかかっていない玄関をいつものようにちょっと大袈裟に開ける。
「ただいま」
「おお、おかえんなさい」
奥の台所から聞こえてくるラジオの軽快な落語番組。その大きな話し声の隙間からかすかに聞こえてくるのは、少し疲れているような、ほっとする温かな声。私は優しいその声をもっと近くで聞きたくなって、持っていた重い荷物もそのままに、何よりも先にその声の主のもとへと急ぐ。
私のおばあちゃんは色白美人で、子どもが好きで、ちょっぴりお人好しな人でした。
四十年以上、あなたがたった一人で切り盛りしてきた駄菓子屋。開店当時、まだ幼かった少女はいつしか母親になり、今ではすっかり親子二代で愛される有名店になりました。
いつの時代もあなたの愛情で店内は溢れ返っていたことでしょう。誰にでも分け隔てなく接していたあなたの周りには、いつもたくさんの人がいました。
今だから言えるけれど、ちょっとだけ焼きもちを焼いたりしていたんだよ。
大好きで大好きで仕方のなかった私の自慢のおばあちゃんを取られたくなかった、なんて言ったらあなたは笑いながら抱きしめてくれるかな。
黒枠の中で静かに微笑むあなたの優しい瞳を見つめるたびに、私は涙が止まりません。
あなたがこの世から旅立って行ったあの日から、私は死についてより深く考えるようになりました。ですが、いつになっても答えは出ないままです。
でもこれこそがまさに正しい答えなのでしょう。
分からないからこそ生きていく。死は人生最大の難問なのだ。だからそう簡単に解決してはいけない。今、奇跡的に存在している私とこの世界を精一杯生きていこう。
それが残された者の絶対的な使命であり、あなたがこの世に生まれ、巡り合うことができた喜びと感謝をもっとも素直に表現できると思うから。
おばあちゃん、私はこれからの人生すべてをかけて、あなたにありがとうを伝えていくよ。
あなたのためなら、この先、どんな困難が待ち受けていようとも、笑顔で乗り越えていける気がするんだ。
だからもう少しだけ空から見守っていて。
次に会うときは、おばあちゃんに負けないくらい素敵な人になった私を優しく抱きしめてね。


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