「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

家族へ・親戚への手紙

生かされて

かみんさん(65歳) 石川県金沢市

明けゆく空を仰ぎ、さわやかな空気を胸いっぱいに吸い込みながら新聞配達に汗を流していると、道で出会う人々が友達か親戚のように思えてきます。
足を引きずりながら走っていると、だれもが気持ちのよい挨拶の言葉をかけてくれますし、抱えている配達袋の重さをいたわってくれます。
でも、泣きたいほどの悲しみや、死にたいほどの苦しみを乗り越えてきたことは、天国のあなたたちしか知る由もありません。
私たち家族が乗る自家用車に、居眠り運転の大型ダンプカーが追突した悪夢のような事故から、二十年も過ぎたのですね。
家族での楽しいドライブが、一転して不幸のどん底に突き落とされることになってしまいました。
救急病院に運ばれ、半年後に意識を回復した私の心とからだには、激しい痛みが待ち受けていました。
全身が複雑骨折し、バラバラになった肋骨が喉に突き刺さった状態で、二年間に及ぶ手術や療養生活は本当に大変でした。
しかし、手術の度に何度も精密検査を繰り返してもらったおかげで、普通なら発見されない、すい臓のガンが見つかりました。
そのとき手術を担当してくださった先生の言葉が、いまでも忘れられません。
「あなたは大変な事故に遭われましたね。家族を亡くされた悲しみも、絶望して自傷行為を繰り返してきたことも理解できます。しかし、もし事故に遭わなかったとしたら、あなたは間違いなくガンで命を落としていましたよ。つまり家族のみなさんが犠牲になって、あなたを守ってくださったのですよ」
その話を聞きながら、人間の「いのち」の尊さと「家族」の大切さを改めて実感しました。
長い長い本当に長いリハビリ生活を経て、七年ぶりに社会復帰するとき、お世話になった看護師さんが私の肩をポンと叩きながら、
「たとえ障害が残っても、人間の知恵や技能は無限なのですよ。あなたは天国の家族に生かされていることを忘れないでくださいね」
と言って励ましてくださった言葉が、その後の人生訓になりました。
長い療養生活で、なにもかも失ってしまったその後の人生は、本当に大変でした。
でも、一日一日を生きていること、生かされていること、そして、なにごとにも感謝できるようになった人生も、まんざら捨てたものではありません。
ありがとう。あなたたちに「生かされている」のですから、頑張って生きていきます。


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