「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

子どもたちへの手紙

今は亡き夫に送りたい手紙

志村 美子さん(89歳) 福岡県福岡市

すぎし二年の月日は短しとも長しとも云え、お互いの希望と愛に輝いた事を感謝したい。
皇国の危難に殉じ戦場に赴く敢へて何の言をば残さん。お前達のこれからの道は、お前達の中に住む僕の心に照らして進むがよい。

 防人は行年三十路の墓標にて
  遺骨のなくて経読鳥鳴く     美子

遺骨も還らず、比島方面というのみで戦死の場所も時日も定かでありません。
出征後生れた娘は還暦を過ぎ、私は来る年には卒寿を迎えます。
貴男、悲しいときは楽しかった思い出の中に、苦しいときは心の中の貴男に尋ねて、遺影に手を合わせて生きて来ました。
夢で会う貴男は若く、私をわかってくれるかしらと思います。
娘は父を知りません。私の思い出話の中のその人を、父として自分の中に住まわせている事と思います。

 仕草似る父知らぬ娘にその人を
  語る今宵は七夕の夜     美子

戦いという歴史の中で、その現身は、三十歳の若さで私の前から遠いところへ逝ってしまいました。朝に夕に、貴男がここにいたらと思わぬ日はありません。どの様な日々を過ごしたであろう。吾が子を抱く事もなく、呼ぶ事もなく、その父たる人、その人を思わぬ日はありません。
桜が咲き若葉の緑野山を彩るとき、私も近いうちに貴男の側に行く事になると思います。
二十歳の私を思い出して下さい。そして二人して楽しい日々を過ごしたいと思います。

 遺詠
 我が吾子よ健しく居よと今はしも
  思うばかりが切なかりけり

 八十路越え遺影へ申す独言
  今夜の夢で会いたく候     美子


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