「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

祖母への手紙

大好きなYさんへ

道原 鳴海さん(82歳) 兵庫県神戸市

Yさんへ
こんにちは。すっかりご無沙汰していますが、そちらの様子はいかがですか。
私は相変わらず、看護師として働いています。
初めてお会いしたのは、初出勤で病室を回り、患者様に挨拶をさせて頂いた日でしたね。
初対面の印象は、小柄で、けれどとても優しい瞳のおばあちゃん。
ご挨拶をした時、ご病気のせいで言葉が不自由だったにも関わらず、笑顔で「ハイ。ヨロシク」と頷いてくれましたよね。
新しい職場と新しい土地。心機一転の思いで自分から選んだことだったのに、その二つで緊張していた私に、あなたの笑顔はとても心強いものでした。

俳句や川柳、そしてエッセイを書くのが大好きだったYさん。
私も文章を書くのが好きだと話した時に詠んで下さった句は、今でも大切に飾っています。
ご自分が書いた本を見せてくれた時、すごいすごいと騒いだ私や他の看護師を前に、恥ずかしそうに、そして誇らしげに笑っておられた笑顔、はっきりと覚えています。
毎日ばたばたと走り回る私達を、あなたはにこにこと見守って下さいましたね。優しいあなたは看護師達にとても人気者だったんですよ。ご存知でしたか?
皆があなたが大好きで、あなたに笑ってもらえることをとても喜んでいました。
そんなあなたが危険な状態になった、と聞いたのは、私が夜勤に入る直前でした。
長く入院されていたあなたが、仲良しだった主任、ヘルパーさん、そして私を、あなたを見送る人間として選んでくれた事を、私は今でも心から感謝しています。
プロにあるまじき事ながら、揃って泣きながらあなたのお支度をさせて頂きましたね。
見えていましたか?

あれから何度も看護師を辞めたいと思ったこともあるけれど、その度にYさんの様に素敵な患者様に会い、元気をもらって今も勤めています。
Yさん、あの時、笑顔をくれてありがとう。あなたの笑顔が、私を今の道に留めてくれたのです。そして、あなたの最後を看取る人間として、私を選んでくれて本当にありがとう。


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