「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

母への手紙


他力 由枝さん(49歳) 栃木県大田原市

私の故郷は宮城県の南三陸町。海と山に囲まれた小さな町。
震災後は被災地として、誰もが知る場所になってしまいました。
あの日、母は父と認知症で寝たきりの祖母と三人で津波にのまれ、亡くなりました。
あまりの惨状とたくさんの人の死。
現実を受け入れるまでには時間がかかり、悲しむ間もなく遺体を捜す日々が続き、いつからか私は、泣けなくなりました。
大声で泣きわめいたら、心の中の何かが変わるのだろうか。
悲しみは心の奥に押し込んで、もう一人の自分が生きているような毎日でした。
母は私が産まれて間もなく離婚し、父と再婚しました。大姑、姑のいる家に嫁ぎ、商売の手伝いもしながら家を支えていました。
自分のことはいつも後回しで生きていた母。若い頃の私はそんな母が惨めに見えて、母のようにはなりたくないと、そう思う時さえありました。
ここ数年は、病気がちだった父と共に、必死に祖母(姑)の介護をしながら暮らしていました。
そこに、あの震災。
叶わぬとはいえ、母に聞きたい。
何を想い亡くなっていったのか。母の人生は幸せだったのか……と。
震災後、たくさんの方から、生前の母の姿、日々の生活を教えられました。
優しい人だった。強い人だった。そしてやっぱり、自分のことは後回しの人だった。
私はそんな母を、誇りに思います。
今、私の嫁ぎ先には、父と母の小さな仏壇があります。ありがたいことに、主人も義母も、常に手をあわせてくれています。
私も最近ようやく、父と母に「今日もよろしくね」と声をかけられるようになり、一人きりになると、涙も溢れるようになりました。
父と母の位牌を前に、まだ恥ずかしくて言えませんが、いつか声に出して伝えたいと思います。
「生んでくれて、ありがとう。あなたの娘で良かった」と。


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