「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

父への手紙

親父へ好香

今野 芳彦さん(64歳) 秋田県にかほ市

最近線香を上げるのが疎かになったと憤慨していたなら御免な親父、孫の子守で手いっぱいというか、仏間をチョコチョコ走り回るので線香やロウソクの火が危なくてなあ。

孫のオムツ交換で思い出したんだが、親父も介護オムツの着用を嫌がったなあ。夜中に何度か起こされ、トイレに付き合わされたけれど間に合わず、途中で廊下を濡らしてしまう。だからといって怒ることも出来ないし、親父もさぞや落ち込んでいるだろうと思いきや、何処吹く風といった顔をしている。こっちは呆れて疲れがドーッと出たのを懐かしく思い出すよ。 オムツは自分のためで無く家族のためにやって、と家内に諭され、納得してくれたおかげで私の睡眠時間もだいぶ楽になった。 生まれた時には小さなオムツ、老いては大きなオムツ、人生で二度経験するんだな。

体力がおち、呼吸も弱くなって入院した親父の今後について、担当医から、この先、意識がなくなった時に家族として何処まで治療を求めるのかと聞かれ、私は決めなければならず、辛かった。
呼吸が止まりそうになったら人工呼吸器を付けるのか、心臓が止まりそうになったら心臓マッサージをするのか、脳死、死、色んな選択肢を絞り込んでおいてと言われても、簡単には答えが出ず、悩んだ末に、苦しまないようにしてほしい、そして無駄な延命は望まないことをお願いした。それが親父の答えだと思ったし。 無理というか、無駄と言っていいのか、難しいけれど、延命は本人のためでなく、残された家族に与える死のダメージを薄めるためかもしれないと思えるようになったからだ。

親父、不本意だったら勘弁してな。でも、私も父と同じ道を選ぶよ。

今日は線香を灯そう。良い香りが含まれているから心が安らぐぞ。仏間に漂う香の中で親父と話をしよう。 親父はいいな、何年経っても変わらないもの。仏壇の写真が息子より若いんじゃあ拙いだろう。孫に爺より大爺がカッコいいと言われるのは辛いもんだぞ。 そろそろ孫が起き出す時間だし、この御供えの菓子袋、開いていいかな。喜ぶ顔を一緒に見よう。


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