「今は亡きあの人へ伝えたい言葉」作品集

母への手紙

親子の絆

長坂 隆雄さん(78歳) 千葉県船橋市

お母さん、貴女が献体登録をした時には、驚きはしましたが、将来の問題として深く気にはとめませんでした。新春早々に貴女は骨折し、緊急入院しました。92歳の年齢は争われず、目にみえて衰弱して行く貴女を前に、私の心に貴女の献体問題が重圧と感じる様になりました。

『たとえ研究の為とは言え、世間一般の葬儀をする事もなく、献体をする事が子供として許されるのか?』
『献体の登録は決して強制を伴うものではない。残された家族が連絡しなければ、立派な葬儀を行う事ができるのでないか?』
『改めて貴女に献体の意志の確認をすべきじゃないか?』

私の心は大きく揺れました。
数日後、担当の看護婦さんが、意外な事を打ち明けてくれました。

お母さんが、私にこんなことをおっしゃいました。
『私はなくなったら献体する事になっているので、私の体は預かりものなのよ。傷めたり、傷つけたりしないで、少しでもきれいな体で研究用になりたいの』  
その言葉を聞いて私は胸が一杯になりました。  
お悔やみ花
考えて見れば、献体という行為は去り行く人と、残された家族の信頼関係があって初めて実現できるのですね。  
お母さん、貴女は私達家族へ絶対の信頼を寄せてくれていたのですね。
お母さん、貴女の意志を軽く考えていた私の愚かさを知りました。
貴女の意志を尊重する事こそ、最高の葬儀ではないかと知りました。  

その二日後、貴女は静かに息をひきとりました。  
最後まで迷う事なく、自分の意志を貫いたお母さん…
貴女の子である事を誇りに思っています。


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