吉川美津子のお葬式あらかると

Vol.20 私は上手に死ねるでしょうか?

席からゆっくりと立ち上がり、それぞれが何か考え事をするような素振りで会場を後にする。談笑する人はひとりもいない。小声でコソッと話している人はいるけれど、多くの人は黙々と出口に向かって進んでいる……よくある映画の後の光景とは明らかに違う、そこには物静かな、でも温かみのある空気が流れていました。

その映画のタイトルは「エンディングノート」。かつて「段取り命!」の熱血営業マンだった砂田知昭氏が主人公のドキュメンタリー映画です。
ガンを告知された後、自らの死の段取りをしようとエンディングノートを作成し、死に向かっていくというストーリーで、カメラを回しているのは実の娘であり、今回の作品の監督でもある砂田麻美さん。
普段から家族、特に父親にカメラを向けていたようで、スクリーンに映し出される亡き砂田氏の表情はいつも自然体。おそらく多くの人が、自分の立場と重ね合わせて観たことでしょう。自分が逝く立場だったら、見送る立場だったら……。

死や葬送は「選ぶ時代」となりました。
映画「エンディングノート」 死の定義は心臓死と脳死の2つとなり、葬送方法は個性化・個人化しています。埋葬方法も多様化し、承継を前提としない墓や散骨や樹木葬といった自然葬法も登場しています。家族関係や生活環境が昔と違って複雑化しているため、「記録を残しておかなかれば伝わらない時代」となったことも、エンディングノートが注目されている要因でしょう。

私は映画については素人なので、カメラワークだとか映画の深みだとか、ストーリー展開だとか、監督の力量みたいなことはまったくわかりません。しかし、作ろうと思って作れる作品でないことは確か。
「私は死ねるでしょうか?上手に死ねるでしょうか?」と自問する砂田氏の言葉が耳に残ります。

砂田麻美さんは言います。「段取ることが、父にとっては生きる力になっていたのでは」と。エンディングノートを書くことが、前向きな生き方へとつながる人もいるでしょう。また家族や友人・知人との絆や縁を改めて感じる人もいるでしょう。エンディングノートが「死の準備」だけの目的だけではないということを、教えてくれるような映画でした。


吉川美津子の“お葬式あらかると”TOPに戻る